20_水柱様は絶好調
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※義勇さん絶好調注意
師範に撫でられると荒れた気持ちが凪ぐ。
女としては全く意識されていないようなので若干複雑な気持ちもあるが、師範と触れ合えるこの関係に私は完全に甘えていた。
剣士としても継子としても褒められた振る舞いでは無いが、師範がこうして甘やかしてくれなければ私はとうに発狂しているだろう。
「一体何されたァ」
言いたくないと言えば師範は無理矢理聞き出したりはしない。
だからこそ、あまり隠し事はしたくなかった。
こんなに優しく甘やかしてくれる師範に、隠す必要のないことはなるべく打ち明けようと心に決めていた。
「……フトモモを……撫でられまして」
「殺してくる」
「いや聞いてください!それで、つい水柱様に蹴りを入れてしまいました…」
「!?おお、よくやったじゃねぇか」
「問題はその先なんです…!!!」
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単独任務を終えて帰路についたところで嫌な気配を察知する。
察知したところで避けることもできずに背後から拘束され、また屋敷に来いだの疲れているのかだのなんだの話し掛けられるが、割りと体力を消耗していた私は心ここにあらずの状態だった。
それがいけなかった。
「少しむくんでいるな」
隊服のスカートの切れ込みにするりと手が侵入してきた。
あまりのことに硬直していると、太腿を緩い力でつぅと撫で上げられ、身体がビクリと跳ねる。
その反応を嘲笑うかのように、笑みを含んだ吐息が耳元に吹き掛けられた。
「なまえは感じやすいな」
「いやぁーーーーーーッ!!!気ッ色悪いんですよこの変態ッッ!!」
あまりの悪寒に柱だ上官だ隊律だという思考が吹っ飛び、身体が防衛本能のまま動く。
鳩尾に肘を入れ、振り向きざまに腹に回し蹴りを、そこから更に三段蹴りを決めてしまった。
上段蹴り三連がそれぞれ胸、首、鼻っ柱に入り、最後に血が飛び散った気がする。
いけない、いくらなんでもやり過ぎた。
俯いて立ち尽くす水柱様のお顔から滴った液体が地面に赤い円を描いている。
流石に謝罪しなければと冷静になったところで、水柱様が震えながら口を開いた。
「なまえ自ら俺に触れてくるとはッ…!随分積極的になってくれたななまえ。そこまで想ってくれて俺は嬉しい」
ハァ…ハァ…と息を荒らげながら涙と鼻血を浮かべる男は、今まで対峙したどの鬼よりも遥かに恐ろしい。
祝言はいつにする!!と追い討ちをかける言葉を振り切るべく、私は全力で逃走した。
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