21_スケベ継子は絶不調
..........
「……という顛末でして」
「お前もとんでもねえヤツに好かれたもんだなァ…」
事の流れを話し終えた私を、師範がものすごい憐れみの目で見つめてくる。
我ながら本当にとんでもない人に好かれてしまったものだ。
嫌がっても言葉が通じない、逃げてもどこまでも追いかけてくる、蹴ってもまるで諦めないどころか喜ばれてしまうとは。
私の頭の中に”詰み”という単語が浮かぶ。
あまりにも憐憫の表情を向け続ける師範に、そんな目で見ないでください!と両手で顔を覆った。
「おい待てェお前その手首どうしたァ」
「えっ……えっ!?」
思わぬ指摘を受け、自身の顔を覆っていた手を外すと、パンパンに腫れた左手首が目に入る。
そういえば討伐の際、襲われていた人を庇って鬼の攻撃を左腕で受けた記憶がある。
あの時はきっちり往なして処理したと思っていたが甘かったらしく、負傷していたのだろう。
明らかに骨まで逝っている腫れだ。
「こんの馬鹿がァ!!骨折に気付かないヤツがあるかァア!!そんな状態で目一杯抱き着いてきやがって!悪化すんだろォが!!」
「ごめんなさいぃ!!」
至近距離でカッと見開かれた目でお説教を食らい、慌てて師範の膝から飛び退いて土下座で謝罪するが、手着くなっつってんだろうがァ!!と火に油を注ぐ結果となってしまった。
手首を庇いながら正座して師範のお小言に耳を傾け、ぺこぺこと首だけで謝罪する。
やがて師範は怒り疲れたのか、はあ、と重たい溜息を吐いた。
「行くぞ」
「え、どちらへ」
「蝶屋敷に決まってんだろォ」
「そんな気軽に行って良い場所なのですか!?この程度ならそこらの医者で適当に…」
「…………」
「(顔の圧が凄い…!)よ、喜んで行かせていただきます」
「よし」
私の身体を支えながら立ち上がらせ、蝶屋敷への道のりを同伴してくれる師範はやはり過保護だ。
しかも今日は非番だったはずなのに付き合わせてしまって申し訳ない。
そう告げると、師範は何か思案した後にはあ、と大きな溜息をついた。
「お前はもっと甘えろ」
「ええ…?充分過ぎるほど甘やかしていただいてると思いますが…」
「足りねェ」
「………!」
さっきまで怒り狂っていた師範が、困ったような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
陽の光を浴びてきらきらと透ける銀髪に余計に胸がざわめく。
とてもじゃないがこのまま直視などしていられない。
顔に熱が集まるのを誤魔化すように俯けば、追い討ちをかけるように温かい手がむに、と私の頬を摘んだ。
本当、勘弁してほしい。
←prev next→
back