風柱とストーカー撃退訓練


22_蝶屋敷にて
..........


「胡蝶いるかァ」

「まあ、不死川さん。珍しくきちんと怪我の治療をする気になられたのですか?」

「俺じゃねェよ。うちの継子が骨折しやがってなァ、診てやって貰えねェか」


滅多にこの屋敷に顔を出すことのない人の来訪に、正直とても驚いた。
負傷しても自力で手当を済ませては傷跡を増やしている人にどんな心境の変化が、と思えば、理由を聞いて納得した。
隣に立つ彼女の申し訳なさそうな表情から察するに、遠慮する彼女を半ば強制的に此処へ連れてきたのだろう。


「蟲柱様、お忙しいところ申し訳ありません。お初にお目にかかります。風柱の継子のみょうじなまえと申します。」

「なまえさん、お会い出来るのを楽しみにしていました。蟲柱の胡蝶しのぶです。こちらへどうぞ。」


最近彼が女性の継子を迎え、それはそれは大切にしているという噂は聞いていた。
優秀な女性隊士というだけでも充分興味の対象なのだが、あの気性の荒い風柱とうまくやれている、ということも加わり非常に気になる存在だった。

容姿は可憐で、礼節を弁えており、控えめに目を伏せる表情からは色香が漂う。
処置を終えるとふわりと微笑んだ彼女にお礼を告げられ、同性ながらどきりと心臓が高鳴った。
成程、これは可愛くて可愛くて仕方がないというのも納得だ、と心の内で苦笑する。


「ではお薬を処方するので体重を計測させていただきますね。アオイ、なまえさんをご案内してください。不死川さんは覗きに行ってはいけませんよ」

「行くかァ!」


隣室にいたアオイに声を掛け、なまえさんの案内を任せる。
なまえさんが立ち上がる際に然りげ無く身体を支えた彼に吹き出しそうになるのを堪えていると、二人が退室した瞬間にぎろりと睨まれた。


「不死川さんも過保護なのですねぇ。わざわざ同伴されるとは」

「……るせェ。アイツにはとんでもねえ天敵がいるから用心棒が必要なんだよ」

「用心棒ですか。その割には結構お触りが多いみたいですけど」

「いつ何処で何を見たァァ…」

「道端でなまえさんの頬やら頭やら撫で回して泣かせた挙句、手を引いて何処かへ拉致していたとの噂を聞きましたよ」

「…………」

「まさか事実なのですか?」

「ちげェわ!語弊があるにも程があるわ!!」


むきになって否定する彼の耳がほんのり赤く染まっているのがまた可笑しくて笑いを堪えていると、処置室の外から声が掛かった。


「失礼する」


今日は随分と珍しい来客が続くものだ。



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