23_スケベ継子は瀕死
..........
勝手に人の屋敷に上がり込んで、勝手に処置室の扉を開いたのは予想通りの人物だった。
言葉足らずだったり余計なことを言ったりと、人間関係構築力が非常に乏しい問題児。
最近私はお館様に彼の世話係か何かに認定されているのか、よく合同任務が入る、水柱その人だ。
柱合会議でもないのに、柱が3人も揃うというのは珍しい光景だ。
…と言っても、冨岡さんの姿が見えるなり盛大に舌打ちをし、禍々しい空気を纏った不死川さんが立ち上がり、今にも退出しそうな雰囲気なので ”一瞬揃った”という表現が適切かもしれないが。
「冨岡さんまで珍しいですね。怪我をされたのですか?」
「不死川も負傷したのか」
「話しかけんじゃねェ」
今にも揉め事が怒りそうなのでまあまあ、と宥めて冨岡さんに椅子を勧める。
大人しく腰を下ろしてくれたのは良いが、次いで何も言わずに隊服のボタンを外し始めるこの人は変態なのだろうか。
不死川さんに憧れているのだろうか。
どうされましたか、と聞いているのだからせめて先に概要だけでも話してほしいものだ。
げんなりとしながら彼が口を開くのを待っていると、胸元と首の打撲痕を心なしか誇らしげに見せつけてきた。
「この痣が消えないようにする方法はないか」
「はい?消えないように……ですか?一体どういうことですか?」
至極真剣な表情で予想の遥か上を行く頓珍漢な発言をする彼に、流石に困惑した。
処置室の扉をガラッと開けた不死川さんも硬直している。
「なまえが俺につけた鬱血痕だ」
「打撲による内出血ですね。気色の悪い言い方をなさらないでください。」
トンデモ発言に訂正を掛けていると、開かれた処置室の扉の向こうに人影が見える。
そこには、焦点の合わない目で遠くを見つめ、口元だけ笑みを湛えて真っ白な顔をしたなまえさんが佇んでいた。
「おいなまえ戻ってこい!死ぬな!精神的に死ぬなァ!俺がついてんぞォ!!」
「……………」
不死川さんが肩を掴んで揺さぶっても全く反応せず、顔面蒼白で微笑みながら硬直するなまえさんのお姿を見て諸々察してしまった。
先程冨岡さんは痣を指して”なまえが俺に付けた”と言った。
そして不死川さんの”天敵” "用心棒"という発言。
なまえさんの諦めと絶望が混ざったような表情。
ああ、まったくもう、冨岡さん、貴方って人はそんなだからーーーーー。
「なまえ、俺を心配して見舞いに来てくれたのか。嬉しい。なまえの愛情は海よりも深いな」
「テメェの愛情は不快なんだよボケがァァ!!ウチの継子を曇らすんじゃねェエ!!」
冨岡さんの首根っこを引き摺りながら出ていく不死川さんの羽織の”殺”の字を私は静かに見送る。
勿論、屋敷の物を破損したら弁償していただきますからね、と一声掛けるのは忘れなかった。
←prev next→
back