風柱とストーカー撃退訓練


34_大正コソコソ女子会
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蝶たちの戯れを眺めながら、四人並んで蝶屋敷の縁側に腰掛けて桜餅を頬張る。
優しい甘みと塩気を堪能していると、鼻に抜けていく桜の葉の香りが先程の訓練の疲れを乗せて取り去ってくれる。
身体を動かした後の甘味は格別だ。
それも大切な人たちと共に堪能しているとあれば尚更である。

美味しそうに次々と桜餅を口に運ぶ蜜璃さんは本当に可愛らしくてこちらまで元気になれる。
口の端に餡を付けてむぐむぐと咀嚼するカナヲも小動物のようで胸がきゅうっとなる。
そしてその様子を優しく見つめるしのぶ様は絵画のような美しさを放っている。
夢見ていた同性隊士との穏やかな時間に、私はきっと締まりの無い表情を浮かべているのだろう。

蜜璃さんを中心に女子同士ならではの話に花を咲かせていると、何かに気付いたしのぶ様が突如腰を上げる。


「お茶のお代わりをお持ちしますね」

「あっ私が」

「なまえさんはお客様なんですから座っててください。カナヲも、滅多にない機会なんだからなまえさんとお話しして待ってなさいね」

「はい、師範」


柱にお菓子をご馳走になって、お茶を淹れていただいて挙句お代わりの世話までしていただくなんて贅沢の極みというかバチが当たりそうな勢いだ。
いくらしのぶ様も蜜璃さんもお優しいとは言え、何処まで甘えて良いものか…と思案していると、カナヲが私の横顔をじっと見つめていた。


「カナヲ、どうかした?」

「なまえはどういう男の人が好きなの?」

「ええ?いきなりだね…考えたこと無いなあ」

「わぁ良い質問ね〜!なまえちゃんの好きな男性像、私もとっても興味あるわ!」


しのぶ様が私とお話ししてなさい、とおっしゃったからカナヲなりに話題を振ってくれたのだろう。
先程まで蜜璃さんが添い遂げる殿方を見つけるために入隊されたというお話で盛り上がったから、その流れを汲んだのだろうが、正直困った。

うーん、と唸りながら首を傾げる。
正直結婚願望も無ければ誰かと恋仲になりたいと思ったこともない。
男性経験が無いわけではないが、命の危機に瀕する場面が多いこの鬼殺隊で自分は女性隊士という立場で、本能的にそういう欲求が高まった男性隊士に出会してしまった際に為す術なく…ということが偶にあったぐらいだ。
決して「この人が良い!」と思って特定の誰かと関係を持ったことは無い。
そして自分自身の状況的にも、所謂好みの男性像を言語化することが非常に難しい。


「私の場合は今一番身近にいる男性が完璧すぎるからねー…。うちの師範、男前で優しくて強くて色っぽいと来てるからさ。だからこう、自然と男性に求める理想が高くなっちゃうというか。どんな人が良い、って上手く描けないのが正直なところかなあ」



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