35_心が叫ぶんだ
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蜜璃さんとカナヲがぽかんとした顔でこちらを見ていて、暫く沈黙が流れる。
何か変なことを口走ってしまっただろうか。
「えーっと……なまえちゃん、それって不死川さんが理想の男性そのものってことよね?」
「え?あぁ、確かにそういうことですね。」
「キャーーーー!素敵だわ!不死川さんもなまえちゃんのことすっごく大事にしてるみたいだし!二人はとってもお似合いだと思うわ!」
「え!?いやいやいや私なんかじゃ師範には釣り合いませんて!」
何か大きな誤解を招いてしまったことに気付き慌てて訂正するが、蜜璃さんはきゃーきゃーと盛り上がっていてあまり耳に入っていないようだ。
なんとか蜜璃さんを宥めて、ぽかんとしたままのカナヲに口閉じようねと諭してから私はもう一度話を切り出した。
「師範は本当に素敵な方ですから、私じゃ釣り合わないですよ。こんなしょうもない女じゃなくって、とびきり素敵な女性と幸せになってほしいなって…思ってます……」
そう口に出すと何故だか無性に寂しくなって、言葉尻が消えかけた。
先程まで狂喜乱舞していた蜜璃さんも眉毛を下げてこちらを見つめている。
「でも…なまえちゃんは仮になまえちゃん以外の女性が不死川さんの恋人になったとしても平気なの?本当に?」
「……そうか。師範と恋仲になる女性が現れたら、流石に私はあのお屋敷を出ないとですよね…」
もう同じお屋敷で寝起きすることも、朝食をご一緒することも、出迎えることも出迎えられることも、寝苦しい夜に縁側でただ一緒に過ごすことも、触れ合うことも、何もかも出来なくなる。
誰かに言われて初めてそれが現実として突き付けられたような気がした。
そう考えると喉の奥が熱くなり呼吸がしづらくなる。
灼けるようなこの胸の痛みは、きっと心の悲鳴だ。
「っ、想像したら泣けてきました…うう……師範のお傍にいられなくなるのは嫌ですー……離れたくない…やだ……」
「ああっなまえちゃん泣かないで〜!可愛すぎるわ!不死川さんは浮気なんてするわけないから大丈夫よ!」
「そうですよなまえさん、こちらで赤面されてる貴女のお師匠さんが出るに出られず困ってますよ」
「いや浮気も何も恋仲じゃ……って、……え?」
凛とした声に振り返ると、お茶のお代わりを持って戻られたしのぶ様がニコニコと微笑んでいる。
その背後に、陽に透ける綺麗な銀髪が煌めいていた。
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