04_そんな理不尽な
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「すごいよね、みょうじさん。色仕掛けで昇級狙うとか、私たちは思い付かなかったよ。」
「いえ、そのような真似は一度も」
「そういうつもりが無くても、傍から見たらそういう風に見えてる、って言う忠告だよ。先輩の助言は聞くべきだと思うけど。それとも、私が男性だったら聞き入れてくれたのかな?」
蔑むように笑いながらそう言い放った彼女は、甲の隊士なのだろう。
後方に控える3人の女性隊士は、少し戸惑いの表情を浮かべながらも、私への嫌悪感は隠していなかった。
彼女たちは水柱様を慕っている。
そしてここ最近の水柱様と私のやり取りを目撃していた。その際の私の振舞いに思うところがあり、こうして呼び出したのだろう。
「貴女、全然きっぱり拒絶しないし。冨岡様への口の利き方もなってなかったわ。あんな風に馴れ馴れしく振舞って気を持たせて振り回して……ちょっと度が過ぎるんじゃないかな?」
気を持たせた覚えなどない。はっきりと断り続けている。話が噛み合わないから最終的に逃走するほかないだけだというのに。
この方々は私にどうしろと言うのか。
今の対応では色仕掛けをしている、気を持たせているという。
しかし、強い言葉で水柱様を罵倒するような真似をしてもきっと気に入らないと言うだろう。
分かっている。これは難癖なのだと。
気に入らない相手を論で捩じ伏せたいというくだらない欲求を満たすために付き合わされているだけだ。
言い返したところで場は収まらない。
心は真っ黒な感情で満ちているが、頭はやけに冷静だった。実にくだらない言い掛かりだ。相手にする必要はない。言い返すな。たえろ。たえろ。たえろ。
「私たち、冨岡様を心から尊敬しているの。だから貴女みたいな隊士が許せない。貴女は知らないかもしれないけど、柱は本当に忙しいの。貴女みたいな隊士に時間を割かせて、申し訳ないと思わないのかな?」
彼女に許されようと、嫌われようと、私自身に特段影響はない。
何とも思っていない人間に嫌われようと問題ない。
だが、投げかけられた言葉の数々は、疲弊した私の心には酷く堪えた。
「……ご忠告、ありがとうございます。申し訳ありませんでした。」
心にぽとりと毒が垂らされたようだ。
じわり、じわりと痛みが滲み、身体中が冷えていく。
込み上げそうな涙を堪え、私は頭を下げ続けた。
やがて彼女たちがふんと鼻を鳴らして立ち去ったのを確認して、顔を上げる。
酷く冷たい風が、私の頬を切裂くように吹き付けた。
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