風柱とストーカー撃退訓練


41_半透明のラナンキュラス
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一糸纏わぬ姿で俺の腕の中に収まるなまえの肩は細い。
鬼殺の剣士とは言え、いくら自分が鍛えている弟子とは言え、やはり男と女では全く違うのだと実感する。
その滑らかな肌に吸い寄せられるように手を沿わせれば、腕の中で身動ぎしたなまえの目がゆっくりと開かれていった。


「なまえ、無理させた…悪かった」


結局あの後、理性など遥か彼方へ葬り去り、彼女が気を失うまで求めるだけ求めてしまった。
目覚めた際に数発殴られることぐらいは覚悟していたが、腕の中にいるなまえが微笑みながらふるふると首を振る。


「嫌だったら、抵抗してます」

「……本当かねェ」

「本当ですよ。抵抗できるように鍛えられましたから」

「その師が信用ならねェんだろうが」


”師”という言葉にぴくりと反応してなまえが目を見開く。
その目が細められたのと同時にするりと頬を撫でられ、やがてゆっくりとした動作で口付けられた。


「私は…誰よりも”実弥さん”を信頼してますよ」


なまえの揺らめく瞳が俺を射抜く。
その視線があまりに熱を孕んでいて、自分と同じ気持ちでいてくれているのではないかと期待してしまう。

それを確かめる言葉を発するのは流石に手前勝手が過ぎるのではと憚られ、いや、万が一なまえに”恋情は無い”と言われてしまうのが恐ろしくて、俺は出かけた言葉を飲み込み、別の言葉を選択してしまうのだった。


「なあ……何処にも行くなよ、なまえ」

「それ、よく仰いますよね。そんなに心配ですか?」

「心配だァ」


過保護なお母さんみたいですね、と苦笑するなまえの頬を軽く摘んで睨む。
誰がお母さんだ。性別すら違ェ。
男女の関係になったというのにも関わらず、相変わらず男として見られているのか不安になる言動に頭痛がする。

コイツにはどこまでも振り回されそうだと溜息を吐くと、頬を摘んでいた手になまえ自身の手が重ねられた。
その手に指を絡めてぎゅっと握るとなまえも力を込め返してくる。
たったそれだけの動作が、やけに幸せだと感じてしまう。


「この命ある限り…貴方のお傍にいさせてくださいね」


先程の軽口はどこへやら、真剣な眼差しでそう告げられる。
返事の代わりにもう何度目になるかわからない口付けを落とせば、心底嬉しそうな顔で微笑むなまえに、やはり自分はこの女にどこまでも振り回されていくのだろうと半ば諦めがついた。


「俺より先に死ぬのも絶対ェ許さねェ」

「めちゃくちゃ厳しいじゃないですか」



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