風柱とストーカー撃退訓練


43_オシオキ
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※義勇さん超絶好調注意


音柱様と師範のお話が終わるのを待っていると背後に不穏な気配を察知し、咄嗟に後ろ回し蹴りを放つ。
残念ながら上段に繰り出した蹴りは空を切った。
屈んで避けられてしまったようだ。
身体を拘束される前にこちらから攻撃できたのは初めてだったので、その点に関しては密かに自身の成長に喜びを感じる。

予想通り視界に入ってきた水柱様の姿に溜息を吐きつつ、恐らく抱き着いてくるであろう次の動作に警戒した。
しかし予想よりも遥かに素早く荒々しい動作で向かって来られ、身体が反応出来ない。


「ぐっ…!」


背中に走る衝撃で一瞬息が詰まる。
今まで性的な嫌がらせは散々受けてきたものの、暴力的な行為を振るわれたことは無かったので油断していた。
滲む痛みに耐えながらなんとか瞼を持ち上げると、眉を吊り上げ怒りを滲ませた水柱様が私を見据えている。


「誰に付けられた」

「………へ?」


投げかけられた言葉と今の状況が理解できず、間抜けな声が漏れ出る。

水柱様のお怒りを買い、背中を塀に押し付けられたことは分かる。
右手が拘束されているのも理解できる。
だが膝が胸に着くほど左脚を持ち上げられ、裏腿が晒されているこの体勢は全くもって理解不能だ。

あまりにも堂々と足の付根を晒され、そこを注視してくる変態に咄嗟に言葉が出てこない。
そしてそこに咲く紅い痕の存在も今の今まで全く知らなかった。
思考すべきことと口に出すべき言葉、次に取るべき行動。
処理しなければいけない情報が多すぎて脳が正常に機能しない。

今日も良い天気だなあ。
木漏れ日が心地良いなあ。
こんな日に縁側でお昼寝できたら最高だろうなあ。

全力で余計なことを考え、脳が現実を受け入れるのを拒否している。

この永遠にも感じられるような沈黙を破ったのは変態の方だった。


「御仕置きが必要なようだな、なまえ。悪い子だ」

「うわわわわわ気色悪い気色悪い気色悪い寄るなぁあ!!」


迫り来る据わった眼に危機感が爆発し、途端に意識が現実に引き戻された。
拘束されていない左手でこの状況を打破しようと、変態の頬を躊躇なくビッタンビッタンと必死で張る。
全く避けも防ぎもせずに受けられているのは余裕の現れなのだろうか。
効いていないのなら次なる反撃の一手を講じなければと考えながら殴り続けていると、変態の顔から鼻血が飛び散った。

嫌な予感がする。
この男と鼻血の組み合わせには嫌な思い出しか無い。
そう考えたのと同時に、荒い息遣いと共に、晒された腿に硬い感触をぐりっと押し付けられ、悪寒が駆け巡る。



「なまえ…もっと強くしてくれ」

「いぃいいいいいやぁああああああーッ!!!いやぁああ!!やだやだやだあ!!気色悪いんですよアンタ本当にもうやだぁああ!!放せ変態ッ!!ド変態ッ!この屑野郎ッ!放せぇ!!」

「もっと罵ってくれ」


何喜んでるんだ。お前が御仕置きするんじゃなかったのか。
太腿を掴む手が感触を確かめるようにむにむにと動かされ、また全身が粟立つ。

拘束も解けず、どんな言葉を返しても火に油を注ぐ予感しかなく、絶望と恐怖のあまり涙が溢れ出す。
打つ手無しの私はただその場でしゃくりあげるしか無かった。

嫌だ。いやだ。助けて。たすけて。さねみさん。



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