44_とても言えない
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あられもない姿勢で変態に股間を押し付けられているなまえの姿を目にし、身体中の血が沸騰するような怒りが湧き上がる。
元凶の男の頬へ拳を叩き込み、片脚で立たされていたなまえの身体が崩れ落ちるのを受け止め、震えながらしがみついて来る身体を掻き抱いた。
「冨岡テメェ……ブチ殺してやらァア」
「…不死川、」
「コイツは俺の……!」
俺の女だ、と言いかけてはっとする。
そんな言葉を口にする権利が俺にあっただろうか。
自分も似たようなものではないか。
合意を得ないままなまえに迫るどころか、意識のない時にすら手を出していた。
しかも自分は師という立場であり、彼女が拒絶しづらい関係性で事に及んでいる分、冨岡よりも性質が悪い。
事後承諾のような形で合意は得たものの、果たしてそれがなまえの本心であったかどうかは未だ定かではない。
固く握った拳が軋む。
だが、腕の中で泣いているなまえを目の前にして俺が取るべき行動はひとつだと思い直した。
師として彼女を守るべく動く。
ただそれだけだ。
「……っコイツは俺の継子だァ!!手ェ出すなって何遍言ったら理解すんだテメェはよォオ!!」
「不死川、聞け。緊急事態だ。」
「あ"ぁ!?テメェがこの事態引き起こしてる張本人だろォがァ!!」
「なまえが何処ぞの男に抱かれてしまった。早々に粛清せねばなるまい。」
「…………」
「内腿に鬱血痕があった。許し難いことだ。なまえ、誰に襲われた。言え。俺と不死川が必ずその男を排除してくる」
その粛清対象が自分であることなど言える訳もない。
疲労と憤怒で相変わらず思考能力が低下してる俺は何も言葉を継げず、暫し沈黙が流れた。
やがて痺れを切らした冨岡がこちらに近付こうと草履と地面が摩擦する音を立てた途端、なまえの身体が強張る。
なまえの身体を片腕で抱き込み、冨岡の動きを制そうと身構えたところで、奴の動きが不自然に止まった。
「おーい不死川、コイツは俺に任せて早くなまえちゃん連れて帰ってやれ」
「!宇髄すまねェ、助かる…!」
「宇髄、俺たちは今とても重要な話を」
「借りはきっちり返せよ。任務の件は他を当たるから別の形で良いぜー。」
「……わかってらァ」
宇髄が冨岡の首根っこを捕らえてくれているうちにこの場を早々に離れることにする。
奴への礼については後々考えなければならないが、この状況を打破できたのは心底ありがたい。
「なまえ、帰るぞ。走れるか?」
声を掛けても首元に縋り付いて離れようとしないなまえの様子に心が痛む。
何故あの時、独りにしてしまったのか。
波のように押し寄せる後悔の念に駆られながら、未だ震え続けるなまえの身体を横抱きにし全速力で家路を辿った。
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