風柱とストーカー撃退訓練


46_ウタ
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なまえと別々の任務に当たる日には本当に碌なことがない。
出来ることならば、俺の同行以外の任務にはなまえを行かせたくないとさえ常々思っていた。
だがそれを口に出せば本部の意向に背くことになるばかりか、彼女を剣士として否定することにも繋がる。
アイツはそれに酷く傷つくだろうと分かっていた。
だからこそ、言えなかった。

あの時ああしておけば、こうしておけばと、たらればの話は意味がないと理解していてもつい考えてしまう。
いつも何かが起きてから後悔するばかりだ。
何故こうも自分は情けないのだろうか。


十二鬼月、もしくはそれに準ずる能力を有した鬼の出現による救援要請。
なまえと一般隊士たちが先行部隊に合流し、調査に当たっていた山間の村で、隊士及び民間人共に死傷者多数の報せが入った。
本来群れないはずの鬼が同じ場所に少なくとも二体以上は出現している可能性が高いとの情報も同時に聞かされている。
鴉からの指令を耳にした時から生きた心地がしない。

生きているのか、アイツは。


先導に従って村道を駆けながら、立ち込める鉄錆の臭いに顔を顰める。
途中、家屋で遺体を貪っていた鬼の頚を落とせど、なまえの姿は見つからない。
生存者の一人にも出会さない。

血の河を辿り村の外れまで来たが、小川の近くに佇む甘味処には見覚えがあった。
店の前で倒れ伏している店主は既に息絶えている。
じくりと胸の奥が痛むが、今は一刻も早く先行部隊に合流しなければならない。

地に円を描く赤は山奥へと続いている。
鬼の気配も濃い。
生存者がいるとすればこの先だろう。
但しいつまでも生きていてくれる保証など何処にもない。

焦燥感のままに木々の間を駆けていると、やがて聞こえてきたのは、飛び交う怒号と悲鳴。
それに耳を澄ませば、聞き慣れた声が鼓膜を震わせた。


「庚以下の隊士たちの退避先導をお願いしたはずです!何故戻ったのですか!」

「俺に指図するな!手柄を独り占めしようったってそうは行かないんだよクソ女!」

「うわあああああっ!!」

「っ、早く退避を……!」

「いやだぁあ…!死にたくない!死にたくない!!」


生存率を上げるために退避の選択を取る。
任務遂行は大前提として、長期的に見て狩れる鬼の絶対数が最大になるように。
無駄に命を散らさせるぐらいなら、死地をくぐり抜けた経験を持たせて生還させ成長を促す。
なまえはそう考える奴だった。

時間稼ぎが出来る実力は無いものの矜持ばかりは一丁前なあの男に、本人を戦線離脱させる意図も含めて退避誘導を命じていたのだろう。
それが下らない理由で聞き入れられず、統率の取れない部隊がこの惨状を生み出している。

鱈腹人間を喰っているであろう二体の鬼に対峙するなまえたちに早々に助太刀に入りたいところだが、この距離ではあと数名の命は散ってしまうだろう。
間に合わない者もいる。
助けてやれない。




「ふっ……ふふ、ふふふふっ、」




唇を噛み締めながら柄に手を掛けたとき、この場に不釣合いな笑い声が、なまえの唇から隙間風のように溢れた。





「参ノ歌 侵贖シンショク





「なまえッ!!!待てェェ!!」



俺がなまえの名を叫ぶのと同時に、身体を仰け反らせたなまえが咆哮する。
残響が二重にも三重にも響き渡り、反射的に耳を塞いだ。


何だ、これは。

歌?

叫び?

目の前にいるのは本当になまえなのか?

明らかに様子がおかしい。

歌いながら戦うなまえの姿は

まるで―――





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■侵贖/アルミサエル

DOD3ではスリイが一番好きです。
BGMかっこいいのでぜひ聴いてみてほしい

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