風柱とストーカー撃退訓練


52_クロユリの悲鳴
..........

雨が地面を打つ音が強まっていく。
以前私が隊士達を見殺しにしてしまった任務もこんな雨の日だった。

あの時ウタえば救えたかもしれない。
彼らの命を削ってでも生き永らえさせるべきだったのか。
それとも、精神を破壊される危険を伴うぐらいなら彼らはあの場で散る運命で良かったのか。
未だにその答えは得られていない。

ただ、目の前で仲間が血飛沫を上げて地面に沈んでいく様を見るのはとても辛かった。
あの光景を再現したくない。
そんな自分勝手な想いで安易に力を使ってしまった。
今回一緒に任務に当たっていたあの隊士達は無事だろうか。
それを確かめるのすら恐ろしい。

出来ることならば、こんな力を使わなくても仲間を守れるぐらい強くなりたかった。
柱になれるだけの剣技の才、恵まれた肉体、強靭な精神が欲しかった。
人の命を削る呪われた力なんて欲しくなかった。

ぼうっと窓の外を見つめていた私に、師範が訝しげな視線を向けてくる。


「…すみません、少し呆けていました。何か腑に落ちない点でも?」

「……負荷が掛かるのはウタを浴びた側だけじゃねェんだろ」

「…………」

「ウタうこと自体にも危険は伴うんじゃねェのか。だから歴代のウタウタイも刀を取らず支援に徹した。お前が今回ぶっ倒れたのも戦闘とウタの両立による過負荷だろォ。」

「……何でもお見通しですね」


ウタヒメ、だなんて大層に持て囃されていても、その正体は普通の人間の身体に兇悪な"花"が住み着いているだけのただのハリボテだ。
力を使えば徐々に花の侵食が進んでいく。飲み込まれていく。


「それでも、大切な人がある日突然発狂したり、命を落としたりしたら……その元凶がのうのうと生きているように見えていたら。隊士達が憎しみの感情を抱くのは、ごく自然なことですよね。」


大切な人やものを鬼に奪われた私達が、元凶である鬼舞辻を憎むのと同じ道理だ。
隊士達からウタウタイへの反発心が高まるにつれ、鬼殺隊の統率も徐々に崩れていく。


「その憎しみが大きくなっていった結果、鬼殺隊はウタウタイとの訣別の道を選択しました。」


それは組織としての統制を保つために。
これ以上、仲間を苦しめないために。
大切な人が狂っていく様を見ずに済むように。

隊士としての誇りを保ったまま、散っていけるように。


「歴代当主たちは、転生して何度も鬼殺隊の元へ現れるウタウタイを殺し続けるよう指示し、徹底的に排除しました。鬼殺隊とウタウタイは相容れない関係なのだということを”花”に刻みつけて、二度と鬼殺隊の前に姿を現さなくなるまで。

……そうして鬼殺隊の歴史から、ウタウタイはその存在ごと抹消されたのです」




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