風柱とストーカー撃退訓練


53_受諾と拒絶
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過去には鬼舞辻に血を注がれたウタウタイもいたが、即座に"花"に侵食されその身を散らしている。
ウタウタイが鬼側に下ることは"花"が絶対に許さなかった。
"花"はウタウタイごと鬼舞辻を取り込み殺そうとしたが既の所で逃げられている。
それ以来、鬼舞辻はウタウタイに遭遇する度に即逃亡するようになった。

鬼殺隊に見付かれば殺され、鬼に対抗する術はなく、鬼舞辻の打倒も叶わない。
それでも"花"は好機を待ち続けた。


「ウタウタイという存在は、所詮”花”の苗床でしかないんです。」


この身体が朽ちても”花”自体はまた転生して別の肉体に宿る。
鬼舞辻を殺すまで、何度でも輪廻し狂い咲く。
"花"がウタウタイを尊重することなど無い。
所詮は幾らでも替えの利く使い捨ての器でしかないのだから。

そう伝えると師範の顔が苦々しく歪められた。
優しい彼には、自分自身を軽んじるような表現が不快だったのだろう。
それでもこれは紛れもない事実なのだ。


「……事実、私の母はウタの力を制御できず、”花”に侵食されて死にました。鬼にされて家に戻った父から、兄と私を守るために夜明けまで無理矢理歌い続けた。結果、"花"に飲み込まれました。守ろうとしたはずの兄も巻き込んで、娘の私を一人残して…。」


陽を浴びて塵になる父の傍らで、母と兄の身体を覆い尽くすように咲き乱れる白い花。
脳裏に蘇る悍ましい光景をそっと記憶の海に沈める。


「母の亡骸に縋ったときに、”花”は次の苗床である私に移った。あの日、あの瞬間、私はウタの力を受け継いでしまったんです。」


花がこの身体に根を張ったときに自然と理解した。

”花”とは何なのかを
歴代のウタウタイが歩んできた道を
鬼殺隊との血に濡れた軋轢を


「鬼殺隊がウタウタイを受け入れてくれる訳がないことは重々理解していました。
……ただ、私の心は鬼への憎しみで満ちていた。鬼狩として生きる以外の選択肢は無かった。だから私は、ウタウタイであることを隠して、自ら刀を振るうことを選んだのです」


師範の拳に力が篭もるのを視界の端で捉えながら、私は言葉を紡ぎ続ける。


「結局、お館様には私が何者なのか見抜かれてしまいました。御屋敷に呼ばれたときには殺される覚悟をしたものです。

でも、拍子抜けしました。お館様は私を受け入れてくださった。他の隊士にウタの力を使いたくないことにも理解を示してくださいました。それでも鬼舞辻を打倒するためにはウタの力が必要だ、というところで意見は一致した。

だから私は定期的に単独任務をいただいて、自分の肉体を使って少しずつウタの力を制御する訓練を積んでいたのです。」



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