風柱とストーカー撃退訓練


06_甘味と清らかな風と
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不死川さんに連れられて到着したのは、町外れにある甘味処だった。
店の裏手には川がせせらぎ、穏やかな風が吹き抜けている。木陰に用意された腰掛に並んで座ると、鳥のさえずりが聞こえる。
ほう、と息をついてきらきらと輝く水面を見つめていると、店主が注文を取りに来た。


「おはぎとコイツにみたらし団子…で、良かったか?」

「えっ、はい!大好物です」


何故自分の好物を知っているのか。ああ、以前任務でご一緒したときの帰り道、そんな雑談をした気がする。
知ってる、と悪戯っぽく笑う不死川さんに、こんな小さなことを覚えててくださったのかとまた心がじんわりと温かくなった。

甘味が運ばれてくるまでの間は、任務の話や鍛錬の話、私が苦手な型について助言を貰ったりと、鬼殺隊士らしい話をしていた。

お待ちどう、と店主自ら甘味を運んできてくれた際には話を中断し、それぞれの好物に舌鼓を打つ。
美しい景色と、美味しい甘味と、隣には憧れの人。
穏やかな時間だ。凝り固まっていた心が解れていく。


「で、聞かれたくないこともある、っつーのは承知で聞くけどな」


視線は手元のおはぎに向けたまま、不死川さんが突如話を切り出した。


「お前ほど根性のあるやつが、そんな顔してると気になって仕方ねェ。何があった。」

「……………」

「どうせ誰にも言えずに抱え込んで我慢してるんだろ」

「……………」


恥ずかしかった。男性に迫られていて、上手く諦めてもらえず悩み続けているなど。
なんとなく、不死川さんには知られたくなかった。
あの女性隊士たちと同じように、上手く立ち回れない私が悪いと言われてしまったら、立ち直れないと思った。


「目の前で涙流した女を放っておける人でなしに見えてんのか俺は」

「決してそんなことは!」


しかしここまで彼に言わせてしまっては、だんまりを決め込む訳にも行かない。
私はなるべく、相手が水柱様だと特定されないように気をつけながら、ここひと月の悩みをぽつりぽつりと話し始めた。

合同任務後から、ある男性に付きまとわれるようになったこと。自宅の場所が割れてしまい、帰るのが億劫なこと。町に出てもその方が突然現れること。会話が噛み合わず、逃走を試みても一筋縄では行かないこと。
一連の流れを目撃していた隊士に、風紀を乱すなと注意を受け落ち込んでいたこと。


私の話が進むに連れて、不死川さんのお顔に青筋が増えていき、私は冷や汗をかいていた。



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