07_教えてほしいの
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「さしずめお前より上の階級の奴に迫られてるんだろ」
「!?何故っ、」
「お前が逃げるのに苦労する、拒絶できないやつなんざ限られてんだろォが。実力で敵わないか、上下関係重んじてるお前より上の階級なのかどっちかだろ」
いま階級いくつになった、と問われるが躊躇う。私の階級は乙なのだ。上は甲か柱しかいない。まさか相手が柱だとは不死川さんでも思い至らないかもしれないが、甲の隊士の数だって限られている。無実の人に嫌疑が掛かり、迷惑を掛けてしまうかもしれない。
しかし、上官命令だァと凄まれれば逆らえる訳もなく、私はおとなしく拳を握り階級を示した。
「………甲の奴、か…」
「………………」
「まさか柱じゃねェだろうなァ?」
「…っ!!」
しまった、馬鹿正直に反応してしまった。
私の馬鹿。
不死川さんのお顔にまた一本青筋が浮かぶ。
「悲鳴嶼さんは無ェとして、宇髄、煉獄、伊黒、冨岡、時透」
「(今度は反応しちゃいけない!反応しちゃいけない!)」
「成程、冨岡だな」
「何故分かるのですか!?」
「確定かァ。殺してくる」
「ちょ、隊律違反に…!不死川さんにそんなことさせる訳にはいきません!」
禍々しい空気を纏ってゆらりと立ち上がった不死川さんの背中にひし、としがみつくと、途端に不死川さんが硬直した。
無礼な真似をしてしまったと慌てて謝罪すれば、別に構わねェと仰りつつ少しお顔に赤みが差していた。やはり怒らせてしまったかもしれない。
甘味を一口放り込み、お茶を啜り、私たちは一息ついてから話を仕切り直した。
「まぁ、アイツ相手じゃそりゃ苦労するわな…。会話は噛み合わねェ逃げるのにも苦戦する、ってのにも納得だ」
ひと月も追い回され続けてりゃそりゃ気も滅入るよなァ、と溜息を吐きながら、不死川さんは私の頭をぽふぽふと撫でてくれた。
てっきり、心の未熟さについては多かれ少なかれ苦言を呈されると思っていた。
鬼を滅殺する鬼殺隊士として、このようなことで心の平静を乱すなど恥じるべきだと。
でも不死川さんはただ私の気持ちに寄り添い、心情を汲み取り、労りの言葉をくれる。
私は、優しかった兄の生前の姿を不死川さんに重ね、甘えてしまっているだけなのかもしれない。
それでもこの手を振り払おうという気持ちは微塵も湧かなかった。
ああ、この人に触れられるのは全然嫌じゃないなあ、なんて思いながら、また込み上げてきた涙を乾かそうと瞬きを堪えた。
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