63_記憶にございません
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「なまえ、足が速くなったな。不死川の稽古のお陰か」
「いやあああああああなんで追い付けるんですかさっすが柱ですねえ!!最悪です!!」
常人、いや甲の隊士でも目で追えない程度の速度で駆けているのにぴったりと並走されて戦慄した。
水柱様は本当に人間なのだろうか?
ヒトならざるものに身体を巣食われている私に言われたくないだろうが、それにしても異常だ。
柱の身体能力を侮っていた自分を猛省する。
「あまり褒めてくれるな。今すぐ押し倒したくなる」
「安心してくださいこの先一生貴方のことを褒めることは御座いません!!」
「照れ隠しか。相変わらず愛いな。抱きたい。」
「貴方は常時それしか頭に無いんですかいい加減にしてください!!!」
この人はこの人で頭を何かに巣食われているらしい。
そう思わなければやっていられない。
仕方ない、頭をやられている人だから仕方ない…。
脳内で自分にそう言い聞かせ、強化した蹴りを入れたい衝動を堪えた。
変態を振り切るために走力を上げようと再び弐ノ歌を紡ごうとしたとき、背後から身体を抱き込まれて大きな掌に口を塞がれる。
「……!」
「よォ冨岡ァ……うちの継子に手ぇ出すなって何遍も言ったよなァこの鳥頭が」
「俺は鳥岡じゃない」
「んな寒ィこと言ってねぇだろ!!いちいちい苛つかせんなテメェはよォ!!」
「…ぷは、師範!!」
鼻ごと塞がれていた手からなんとか脱出すると、青筋を浮かべて目を血走らせた師範に睨まれる。
死ぬかと思ったと抗議しようとしたが、言葉がひゅっと引っ込んだ。
無言で睨まれるのはまずい。
一人で外出したこと、結果見事に水柱様に絡まれてしまっていること、ウタを使ったこと、怒られる心当たりはたっぷりある。
これはお屋敷に戻ったら暫く正座でお説教だなと覚悟した。
それにしても、師範も疾走する私を安々と捕まえて口を塞いだのか。
しかも全く痛みを感じさせない配慮付きで。
柱、恐るべし。
「おい変態野郎よく聞いとけェ」
「おれは変態じゃない」
「なまえは俺の女だ。前みてぇにコイツを泣かすようなことがありゃ、俺は本気でテメェを殺すぞォ」
師範が私にも怒っていらっしゃるのは重々理解しているのにも拘らず、不覚にもときめいてしまう。
てっきり師範は私達の関係を誰にも明かしたくないのかと思っていた。
人前で堂々と関係を認める発言をされたことに驚きを隠せなかった。
「……?なまえは俺の妻だと何度も言っている。鳥頭はお前だろう不死川。」
「よォォオしお望み通り今すぐ殺してやらァ!!」
「隊律違反ですぅうう!!!師範落ち着いて!貴方止めるためにウタいますよ!!!」
まあ、これで身を引くような変態ではないと知ってはいたが、あまりにも言葉が通じなさすぎて脱力する。
変態のお陰で普段通りぷりぷり怒っている師範を見られて少し安心したな…とも思ってしまったが、本人達には口が裂けても言えない。
そんなことをこっそりと考えつつ、悲しいかなすっかり日常となってしまった変態との攻防に私は再び身を投じた。
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■踊祝/ラファエル
エグリゴリも格好良いけどラファエルのボーカルの方が好きです。
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