風柱とストーカー撃退訓練


67_投影
..........

「義勇さん!!どうしましたか義勇さん!!!」

「うーわ…」


霞柱様の稽古を終えて蜜璃さんのお屋敷へ向かう道中、私は見てはいけないものを見付けてしまい道端で硬直していた。
変態の代名詞・水柱様が市松模様の羽織の少年に追いかけ回されているのだ。
日頃私を追いかけ回しては不愉快な思いをさせてくる水柱様が頬に汗を浮かべながら逃げ惑う姿はある意味貴重かもしれない。
本気で撒こうとしているわけではなさそうだが、本気で困っている様子も見て取れる。

しかし関われば間違いなく碌なことにはならないだろう。
何が起きているのか気になる気持ちはあるが、触らぬ神に祟りなし、知らぬが仏と心の内で反芻し、自身を納得させ歩みを進めようとした。


「なまえ」

「ヒッ」

「助けてくれ付き纏われている」

「それは水柱様が言えた台詞じゃないですよね漸く私の気持ちがわかりましたかというか何度も申し上げますが気配なく背後に立つのはおやめください!!」

「助けてくれ」

「……〜〜っ、どうしてそのような状況になったのですか…」


聞いてはいけないと思いつつ、つい口をついて出てしまった言葉は取り消すことができなかった。
普段は加害者側である水柱様に同情の余地など無いと思いつつも、同じ被害者の立場になり困惑する彼の姿につい自分を重ねてしまったのだ。

この場に師範がいらっしゃれば即座にお説教を食らうような行動だ。
しかし時既に遅し、首を突っ込んでしまった以上は仕方がない。
要領を得ない水柱様からなんとか”柱稽古を付けないと告げても納得せず追いかけ回されている”との状況を聞き出し、そして市松模様の羽織の少年のくもりなき眼を見て私は一つの結論を導き出した。


「水柱様、残念ですが多分この子は諦めませんよ。私にはわかります。ほんのり貴方と同じニオイがしますから」

「浮気は関心しないな」

「うんもう貴方との会話が噛み合わないなんてこと知ってました。知ってましたけど本当に怒りますよ」

「すまない。なまえの浮気など本気で疑ってはいない」


話が通じないのはいつも通りだ。いつも通りだが腹立たしいことこの上ない。
震える拳を握りしめてブン殴りたい衝動を抑え込み、深く息を吐く。


「とりあえず、もう少し詳しいご事情をお話しなさったらどうですか?このままじゃ埒が明かないですし、何も解決しないですよ」

「……………」

「…黙りこんでも解決しませんからね。場所、変えましょうか」


移動を促すと何故か指を絡めてきた変態の手を思い切り振り払い、私は必死で怒りを抑えながら付き纏い癖のある男二人を先導した。

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