2.個性の発動

 彼女の言う、多分の記憶で思い出せるのは雨上がりの空を見上げてた日のこと。第一志望校の判定がDだった模擬テストの結果をくしゃくしゃに丸めて空に投げ捨て、屋上のフェンスの外側に立って落ちていく紙屑をぼんやり眺めていた。彼女が投げ捨てた紙屑はゆらゆらと重力に従い数秒後には真下にあった、桜の花びらは浮かんでいる大きな水たまりに汚く沈んだ。

「さて、今日は何処に行こうかな」

 だんだんと水分を含んでいく紙屑を一瞥し、彼女は大きく背伸びをする。この時期になると部活動もないため放課後の予定は特に何もない。帰り際にクラスメイトから「カラオケに行かない?」と誘われていたけれど彼女はそんな気分じゃなかった。散々な結果を見ておいて何もする気が起きなかったのだ。そんな時はいつもフラっと屋上へと足を運ぶことが日課だった。施錠されている鍵を変形させたクリップでこじ開けて入る。狭い教室とは違った開放的なこの場所が何となく好きな空間らしい。彼女は手すりに乗り、ぐらつく身体をなんとか保ちながら大きく深呼吸をする。そうして、出来るだけ頭を空っぽにして宙へ一歩踏み出した。

 ガクンとバランスが崩れ、彼女の身体は先程の紙屑と同じく重力に従い地面に向かって急降下する。しかし彼女は特に動揺もせずに身を任せている状態であった。あと少し、ほんの少しで地面に叩きつけられる……その瞬間、彼女の身体は忽然と姿を消した。

「ん……、あ〜ぁ。今回は成功かも…?」
「何が成功なんだよ」
「あは、大失敗かも」

 目を覚まして辺りを見渡すとそこは薄暗い室内だった。静寂に包まれていたこの場所には来たことがない、もしかしたら自分が心から安心できる場所になるかもしれないと思った彼女だったが、後ろから聴こえる声と金属を押し付けられた感触に絶望を覚えた。


 
back両手で掴んで
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