3.出会いと脱出

「だから、私はヒーローじゃないんだってば」
「じゃあなんでココが分かった」
「だぁかぁら! それは私の個性がワープだから来れたの!」

 目覚めてから数分後、彼女背後をとられて身動き出来ないように両手両足を縛られてしまった。しかし、この絶望的な状況でも彼女は怯むことなく冷静に状況を説明している。彼女の言う自身の個性が【ワープ】であるためだった。正確な位置を把握していれば一瞬で目的地に行くことができる、敵の居場所さえ把握しておけば簡単にたどり着くことができるヴィラン退治にはもってこいの能力なのだ。しかし彼女の個性はソレだけではない。

「気分で好きなところに行けるの! ランダム! ランダムになるからココに来たのも偶然なんだってば」

 実は彼女の個性にはランダムにワープできる特殊性があったのだ。コレは好奇心旺盛な幼少期に試しに知らない場所へ行こうと個性を使ったことで発覚したもので、当時は数十キロ離れた土地に飛ばされて大事になっていた。制御しなければとても危険な個性であることには間違いないのだが、彼女の冒険好きで、「危険は常につきものだしピンチは乗り越えるためにあるっしょ!」の精神がこの個性を増幅させた。トライアンドエラーの結果、彼女が望まない限りは県を跨がないくらいにまで制御できるようになっている。
 制御できたからと言えど、これまでに何度も危険な目にあっていた。その度に彼女のメンタルは強化されていたのだが、さすがに世間を騒がせている敵の本拠地に乗り込んでしまったのは初めてだ。

「誰が信じるかよそんな話」
「信じてもらう必要はないよ、私もう帰るから」
「は? ここから帰らせる訳ないだろ」
「帰るよ、だって私の個性はワープだもん」

 内心ちょっとやばいと感じつつも表情には出さない彼女、言葉だけだと物怖じしない女子高生に見えるらしい。堂々としている彼女の発言に、手配書で見たことのあるヴィランたちは臨時体制を解かない。彼女は少しでも動きを見せようものなら息の根を止めることさえ考えているようだった。
 そんな中、彼女に話しかけている敵の大将だと思われる青年は淡々と少女に詰めている。フードを深く被っているためその読み取れないが。このまずい状況で、さっさと逃げたい彼女は自信気に「帰れるよ」と言い放ち、後ろ手で縛られた手をそっと合わせる。そして彼らに向かって「ここいいところだね、気に入ったよ」と笑った。

「また来るね」
「あ? ここから……」

 「出す訳ないだろう」ときっと言いかけたのだろう青年の声を、彼女は最後まで聴くことなくその場から姿を消す。残ったのは両手両足を縛っていたロープと彼女は座っていた椅子のみ。ほんの一瞬の出来事だった。ノーモーションで忽然と消えた彼女にザワつき、目の前でまんまと逃してしまった青年は届かない声を響かせた。次来たら必ず殺すと、強く心にも刻んで。

 
back両手で掴んで
ALICE+