4.挨拶

「有翔〜! 今日こそはカラオケに行くよね」
「ごめん、今日も予定があるの」

 思いがけず敵の本拠地に乗り込んでしまったあの日以来、彼女はむやみに個性を使うことを止めていた。さすがにまずいと思ったらしい、次の日は個性を使わずに学校へ行き、数日は真面目な生徒として学校生活を過ごしていた。
 暫く時間が経ったある晴れの日、友人の誘いを断った彼女・天道 有翔は校門を出てすぐ個性を使い自室に戻る。やはり個性は便利なようで「やっぱ楽だな〜〜」と大きな独り言を漏らして、スクールバックを乱暴にベッドへ投げ捨て、代わりに勉強机に置いておいた銀色の道具と白い大きな袋を両手に抱えた。

「さて、行きますか」

 これもまた大きな独り言で「目指すはこの前のお兄さんのところへ!」と叫んだ。その目はとても輝いていて、まるで新しい玩具を見つけたような小さな子どものよう。久しぶりの心躍るであろう時間を待ち遠しく思う彼女は、荷物を抱えたまま両手を合わせて個性を使う。イメージしたのは危険だと感じたあの場所。

「よっ、また来たよ」
「本当に来やがった……」

 個性発動からものの数秒後、彼女は前回と同じように薄暗い部屋へとワープした。ちょうど目の前には先日対峙していた青年が居たため、軽く挨拶をする。ちょうど何かを飲むところだったらしい青年は驚きのあまり無言でコップから手を離してしまう。青年は落としたコップに目もくれず、また突如現れた彼女から視線を外さない。ヘラヘラと笑っている彼女だが、今回は大きな荷物を抱えていた。何かする気だろうか、そう構えていた青年にはお構いなしに、彼女はまるで友達に会ったような気軽な挨拶をして両手で抱えた荷物をテーブルに置く。

「次来たら殺すって言ったよな」
「え? そんなこと言ってた?」
「あぁ、わざわざ死にに来るなんてご苦労なことだな」

 約束通り殺してやるよと笑った青年は右手を彼女の顔面目がけて振りかざした。あと少しで彼女の顔面を覆う……ことはなく、また彼女は姿を消す。刹那、青年の背後から彼女の声がしたと思えば左手に違和感を覚えた。ガチャリと重みを感じた左手には手錠がはめられていたのだ。やばい、青年がそう思った時には既に遅し。次の瞬間には右手にも同じように手錠が掛けられ身動きがとれない状態になってしまっていた。

「……何のつもりだお前殺すぞ」
「そうそれ、殺すって言う相手を無防備にしとく訳ないでしょう」

 拘束した青年から距離を取りながらカウンターに腰掛ける少女は「それにその手は危険だと思ったから」と、「女子高生にそんな無防備とか世も末だねヴィラン連合の大将さん」と嘲笑う。そして誰もいないカウンターで、肩肘をテーブルに乗せてニッコリとほほ笑んだ。

「私は天道 有翔。よろしく、死柄木 弔さん」


 
back両手で掴んで
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