5.トガヒミコの思惑

 自己紹介をした日から、有翔と死柄木の攻防戦は始まった。こいつもしかしてちょろい? と感じ取ったのか有翔は1週間に1度のペースで個性を使う。時間帯は大体授業が終わる夕方ごろ。彼女が個性を使えば必ず死柄木の背後に現れる。絶対わざとだと言わんばかりの登場だが、彼の殺意をいとも簡単に受け流してカウンターに腰かけるまでセットだった。時には死柄木の攻撃さえも個性を使って完全に逃げ切ってしまう。ある意味彼にとての天敵のような存在だった。しかし彼女はそのやりとりさえも満足しているようで、どんな罵声を浴びせられてもニコニコと笑っている。彼女曰く「私体育10だし、あれくらいなら余裕で避けれるもん。猫?がじゃれてるみたい」と。
 とにかく彼女は世間の敵だと言われている彼らの元へ飽きずに何度も通い続けて、そうして蝉が鳴き始めるころにはソコが彼女の帰る場所になっていた。

「よー、また今日も来てんのな!」
「トゥワイス! 今日は土曜日だから朝からいまーす」
「今日は一緒にお買い物行くんですよ」
「ヒミコちゃんと約束してたからオシャレしてきたの」

 初めは謎の女子高生が入り浸っている状況に対してヴィラン連合も戦場のようにピリピリとしていたのだがいつの間にか1人、2人と彼女がいることに慣れてしまい、いつの日か当たり前の日常と化していた。彼女も夏休みに入ると同時に朝から日が沈むまで只ここに来て暇を潰すようになっていた。

「あ、弔さん。今日はずっとここにいるの?」
「いいや」
「ふぅん」

 今日はいない、その言葉に対して適当に返事をした彼女だったが実はこの日を狙っていたのだ。黒霧と死柄木が仲間数人を引き連れて出かけた時を狙ってヒミコに話を持ちかける。

「ねぇ、ヒミコちゃん。私、死柄木さんのところに行きたいんだけど」
「ん、じゃあ行こっか」

 その一言を待っていたかのようにニンマリと笑ったヒミコはピョンと跳ねてスカートの皺を直し有翔の両手をとった。両手を引っ張られた彼女は少し強引に起き上がり、鞄を持って準備をする。場所は分かっていた。彼らが最近コソコソと地図を見ていたのを知っていたのだ。1度、夜中に来て地図の場所まで個性を使って移動していたので何処へでも行くことが出来る。

「みんなはここにいるよ」
「わかった、ヒミコちゃん掴まってて」

 ヒミコに腕を掴ませた有翔はじゃあ行くよ、死柄木さんの元へと叫んで両手を合わせる。
そしてその場から2人とも消えた。

 
back両手で掴んで
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