7.ようこそこちら側の入り口へ

「お前、トガ ヒミコだな!!」
「隣にいるお前もヴィラン連合か? 大人しく掴まれ」
「有翔ちゃん、逃げてください!」
「ヒミコちゃん!!」

 上空から人が落ちてきたと思えば翼の生えたヒーローが数人、彼女たちの行く手を阻むように立っていた。ヒミコは有翔を背に隠して裏路地から逃げるように言う。有翔は彼女の言葉通りに裏路地へと逃げ込んだ。

「はぁ、はぁ、っぁあ……」
「逃がすな! 必ず捕まえるんだ!」

 直ぐ後ろから声がする。ヒミコは無事だろうか、自分を庇ってくれた彼女の心配をしながら有翔は一本路の裏路地を必死に走っていた。まさか自分もヴィランだと間違われるとは思っていなかった、只ソコに居ただけなのに。肺が熱くなり呼吸が浅くなる、追われる恐怖に足が縺れ上手く走れなかった。
 がむしゃらに走って走って、足が絡んでこけそうになってそれでも前を見て走っていた。目の前に見えた曲がり角を何回も曲がって必死に追手を巻こうとしていたがそれにも限界があったようで、有翔が右へ左へと曲がった先は袋小路だったのだ。もう逃げる場所もない。塀も高く短時間で登れるような高さではなかった。個性を使おうにも別れたヒミコを放って自分だけ逃げる訳にもいかず、彼女は壁を背にして尻もちをつく。どうすればいい? 逃げる? 戦う? 本物のヒーローに敵うはずもないのに手探りで触れた棒を掴んで構える。足音がだんだん大きくなり、声も近づいてくる。もう、もう少しでヒーローがこっちにくることに怯えた有翔は両手で棒をしっかりと握り目を瞑った。

「なんでこんなとこにいるわけ?」
「っ、弔さ……ん」
「帰ろうぜ、有翔ちゃんよ。あっちの不良女子高校生ももう回収したからさ」
「トゥワイスも」
「……さぁ、私の手をとってください。有翔さん」
「はい、黒霧さん」

 目を瞑った瞬間、周りの音が聞こえなくなった。恐る恐る目をあけると辺りは真っ暗で、目の前にいるのは飽きれた表情の死柄木たち。トゥワイスに抱えられていたのは先ほど置いてきてしまったヒミコだった。彼女は少し怪我をしていたものの、有翔に向かって小さくピースサインを送る。それに安堵した有翔は情けなく「へへっ」と笑った。
 黒霧の手をとり、完全に彼の個性の中へと入る。もう安全だとトゥワイスに声をかけられて力が抜けた有翔は隣でダルそうに立っていた死柄木にもたれかかった。彼は深い深いため息を吐いて一言「楽しかったか?」と彼女に尋ねる。それはヴィランになったとしたらこういうことに遭遇することになるんだぞと言わんばかりの皮肉だった。
 しかし彼女は、大きく首を振ってニっと歯を見せて「うん、最高だねっ!!!」だと笑った。それが今彼女にできる精一杯の虚勢だったのかもしれない。震える手を背中に隠して彼らから離れないという意思を示す彼女に、傍にいた彼らは少し嬉しそうに微笑んだ。


 
back両手で掴んで
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