2_違わない約束

 それから私は学校が終わる度に家とは反対側にある少し離れた公園で時間を潰すようになった。公園と言っても広々とした子どものかくれんぼやかけっこには十分すぎる広さで遊具も沢山ある広い土地。広すぎるため大人から自分の身を隠すのにはもってこいだったため、時計台が五時を指すまでそこで時間を潰すことが日課になった。少し遅く帰れば親はホッと胸をなで下ろし、少し汚れた格好で帰れば「もう、お転婆ね。今日は何して遊んだの?」と上機嫌になるので、やめるにやめられなくなってしまったのも事実だった。

 今日も変わらず、公園へと向かいシロツメクサが咲き乱れる場所でランドセルを無造作に放り投げて寝転がる。まだ少し肌寒く感じる風も暖かい日差しには勝てないようで、ちょうどよい温度になって私の頬を優しく撫でる。その風と草木の揺れる音が心地よく、私は重たくなった瞼をゆっくり閉じた。

「ねぇ、大丈夫?」
「う……ん」
「起きてってば!」
「何……?」

 気持ちよく寝ていた私を揺さぶって起こした人物を薄めで確認するが日差しが邪魔で顔がよく見えない。少し身体を起こすと私よりも少し小さな男の子が必死の表情で私をのぞき込んでいた。私が起き上がったことに安堵した様子の少年は首に巻いたマントを広げて両手を腰に当てる。そうしてえっへんと誇らしげに私を見て笑った。

「わっはっは! わたしがきたからもう大丈夫! 」
「……オールマイトの真似?」
「そう!!!!!!!!!!」

 少年は私の言葉を聞いて嬉しそうに顔を輝かせて喜ぶ。ニコニコと表現するのがぴったりな表情に私も口角があがり、隣に座るように促す。少年は素直に頷き、私の隣にちょこんと腰かけた。
少年の名前は緑谷出久と言い、近くの小学校に通う一年生らしい。学区が違うため少年とは別の学校らしく、彼はこの辺りの話を色々教えてくれた。幼馴染の友達とよくこの場所で遊ぶのだとか、時計台の鐘が六回以上なったらおばけが子どもをさらってしまうから早く家に帰らないといけないだとか。

「おねぇちゃんは近くに住んでるの?」
「最近引っ越してきたんだよ」
「じゃあ! これからここにきたらおねぇちゃんに会える?」
「うん、会えるよ」

 他愛もない話をしていると少年が何か焦ったように少し早口になった。何かと思いながら答えると、少年は満足したように「じゃあ明日もここにきてね!」と立ち上がり公園の入り口へと走り出す。そうして入り口で立ち止まったかと思えば振り向き「おねぇちゃんも鐘が六回なるまえに帰ってね!!」と叫んで大きく手を振った。その言葉に先程の話を本当に信じている緑谷くんに愛しさを覚え、同じく大きく手を振り「もう帰るから、緑谷くんも早く帰るんだよー!」と叫んだ。

 その日から私と緑谷くんはほぼ毎日あの公園で会うことになる。私の学校から少し離れているので小走りで公園に到着する頃には緑谷くんは到着していて、いつも嬉しそうに私を迎えてくれた。その無邪気でコロコロと変わる表情と舌っ足らずなのに少し早口で沢山オールマイトの話をする彼が本当に可愛くてしょうがない。ほぼ毎日、彼が話すことに頷くだけの時間だったけど、私にとってはその時間が引っ越して来てから何よりも大事な時間になっていた。出来ることならこのまま引っ越しもせずにこの土地に居て、緑谷くんと一緒にいたいと思えるほどに。


 
back両手で掴んで
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