4_違わない約束

 抱きしめた背中を何度も出来るだけ優しく撫でることしか出来なかった私は目を開けてぼんやりと景色を見る。こんなことならもっと早く打ち明けておけば良かったと後悔した。せっかく友達になれたのに、緑谷くんの話ももっとしっかり聞きたかったし、これからも彼の力になりたかった。

 特段強い個性がある訳でもない私だったけど、それでもこの痛みを少しでも共有して楽にしてあげたかったと歯がゆく感じる。悔し涙を堪えて地面を見た時、ふと地面にあるシロツメクサに目が入った。私は彼を抱きしめたまま左手でそれを摘む。少し不格好だが大きな三つの葉に一つ、小さな葉がくっついている四つ葉だった。私は大きく息をしてその四つ葉を握りしめる。そうして緑谷くんから少し離れて肩に手を添えた。

「緑谷くん、私ね、明日引っ越すんだ」
「―――えっ?」
「本当は緑谷くんの側に居たいし応援したいけど、一緒にいられない」
「そんな…、おねぇちゃん」
「でもね! いつか絶対ここに戻ってくるから!」

 緑谷くんが泣いている時に、悲しい時に追い打ちをかけるようで心苦しかった。一瞬だけ止まった涙を袖で拭ってあげる。絶対に戻ってくるからだからと私は左手に握りしめていた四つ葉のクローバーを差し出す。思い切り握ったせいでより不格好になったクローバーを緑谷くんの手に預けた。

「四つ葉のクローバーってね【希望】とか【幸福】って花言葉があるらしいんだ。だから緑谷くんに持っててほしい。悲しいし辛いけど、私はいつも幸せそうに笑って話してくれるかっこいいヒーローになって欲しいし夢を諦めてほしくない」
「でも、ぼくむこせいなんだよ?」
「無個性だからって諦められる夢じゃないでしょう? 私も諦めて欲しくない、だから約束しよ」

 私は零れ落ちそうになる涙を拭って、右手の小指を彼に突き出した。首を傾げる緑谷くんにニカっと笑いかける。

「指きりしよう。私も絶対ここに戻ってくるから緑谷くんもその時まで夢を諦めないで!」
「ゆびきりしたら、かえってきてくれるの?」
「……うん。すぐじゃないけど絶対戻ってくるよ。だから緑谷くんも約束」
「わかった」

 緑谷くんは自分の袖で涙を拭い、右手の小指を私の小指に絡ませる。二人で「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指きった」と声を揃えて指を離した。無個性の彼がヒーローになることも、私がここに戻ってくることも難しいことだって自覚していたがこうでもしないと自分も緑谷くんも駄目になりそうだった。いつかは叶えたい夢、希望を約束にして私たちはお互いを見て小さく笑う。いつの間にか雨は止み、雲の切れ目から暖かい日差しが差し込んでいた。

 
back両手で掴んで
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