1_死柄木弔と正気じゃない彼女

「相変わらずいい仕事だな」

 依頼主に合った唯一無二のコスチュームを作るのが彼女の仕事であった。顧客は様々で大手ヒーロー会社の太客もいれば、表向きには出来ない顧客もいた。しかし彼女にとって彼らの分別はなく、ただ自身の作品を生み出せる相手であれば誰でもよかったのだ。また彼女の評判も良く、人から人へどんな要望でも完璧に作ってしまう才能に誰もが唯一無二のコスチュームの依頼をしていた。

 彼女の作品は普通よりも膨大な時間を要する。他業者と違う点で言えば1件の制作に入れば他の依頼は受けないことであった。そのおかげで予約待ちは数年単位、それでも世界中から彼女に作ってほしいと依頼が殺到する。その要因は彼女の制作方法、また特性が関係していたのだ。

【個性:指向性】

 コスチュームを作る人間としては最高の個性を彼女は持ち合わせていた。個性も相まって制作過程は少し特殊で、依頼主の性格・癖・好きなもの・嫌いなもの・性癖……個人に関連する全てを知り尽くした上でないと作れない性だったのだ。知ってから初めて個性をフルパワーで使うことができる。ある種狂っている彼女だが、それ故に最高の作品が生まれることを知る顧客は何年先であろうと彼女に依頼した。

【依頼主:志村転弧】

 直近の依頼者である青年の情報をかき集めた彼女は設計図を眺めてニヤニヤ笑みを浮かべる。これで彼専用の完璧な作品が出来ると確信を得たのだった。見た目は良いが依頼時も小声でよく聞き取れない、少し暗さを感じる青年のことを私以上に彼を知る者はいないだろう、そんな気でさえいたのだ。
 性格や生い立ち、また彼から聞き出した情報を持っている彼女は、この青年が世間を騒がせるヴィラン連合のリーダーであることも知っていた。それ故にどんな指向性でコスチュームを作れば良いのかもイメージが沸いている。あの青年にとってのコスチュームはきっと、彼自身を守るものでもあるのだ。
 彼女は大胆でそれでいて繊細な青年に似合うものを何百通りもラフとして書き出す。机に乗り切らないラフ案を見比べて個性を発動させる。自身の頭にインプットされている情報と大量のラフ案を一つ一つインストールし、脳内でより正確になるように編集するのだ。そうして足りない部分を補い完成させる。
 目を開けて、耳にかけていた鉛筆をとり素早く新しい紙にイメージを書き込む。家族を亡くしたと言っていた。それならば家族も一緒のほうが良いだろうか。そんなイメージを紙面上に出し終えた彼女は工房に走った。一心不乱に食事も睡眠をとらず個性を発動させる。必要な素材を集め休む暇なく作り終えた彼女は、コスチュームを取りに来た靄をまとった男にソレを渡す。

「はぁ、今回も最高の出来だった」

 彼女は納品前に撮ったコスチューム写真を眺め甘い息を漏らす。何度見ても惚れ惚れするこのコスチューム、あの青年はいつこれを着るのだろうか。着て何を初めてするのだろうか、テレビに映っても他のヒーローに見劣りしない完成度に満足感を感じていた。

 
back両手で掴んで
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