言葉足らず
実技終了後、やっと解放された私は制服に着替えてから校長室へと向かう。
失礼しますと入った部屋には校長室先生と2人の学生がいた。
「実技試験お疲れ様」
「いえ……遅くなりすみません」
「いやいや、君のせいじゃないよ、あれはこちらのミスです」
そう、あの実技試験は学校側のミスで、私は本来受けなくてもよい試験を受けてしまったのだ。
時すでに遅し、タメになりましたと言うと、校長先生が「そう言ってもらえてよかった」といい、座るように促す。
私は既に腰掛けている1人の学生に軽く会釈をしてから腰掛けた。隣のセンターで髪色が白と赤になっている少年からの視線が痛い。
「推薦入学ありがとうございます」
「いやいやこちらこそ来てくれて助かってますよ」
「両親の出身校からのお願いでしたので……」
「まぁ、推薦でなくとも合格できていたでしょうね」
「はぁ、ありがとうございます」
それから校長先生は推薦入学生3人に対して、この学校のシステムであったり、様々な話をした。推薦入学である限り、他の生徒の模範となるように羽目を外し過ぎないことなど。
ところで、と校長が咳払いをする。
「入学にあたって、直守さんにお願いがあります」
「お願い……ですか?」
「ええ、あなたの個性を最大限に伸ばすためにリカバリーガールの元で基礎を学んで欲しいのです」
校長先生のお願いはシンプルなものだった。任務で海外へ飛んでいる両親の他にこの個性を扱えるのはリカバリーガールしかいない。在学中は両親に変わって、リカバリーガールを師とし、特別授業をうけろ。とのことだった。
別に断る理由もないので、二つ返事で了承する。
「ではみなさん、入学式でまたお会いしましょう」
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「おい」
リカバリーガールの元へ行き、簡単に挨拶を済ませてから来客用の出入り口で靴を履く。受験生たちもすっかり帰ってしまい、この目立つ制服を見られないことに安堵した。今日は帰ったらお肉が食べたいなー。なんて考えながら歩いていると、ふと声をかけられる。目の前には仁王立ちをした先ほどの学生たちがいた。2色の髪色を持った少年が距離を詰めてもう一度「おい」と言う。
「な、んですか」
「油断しすぎじゃないか?」
「え?」
ん?何に対して油断しすぎなのか。詰め寄ってきた彼の目は真剣そのもので、それにも関わらず理解できていない私の頭にはてなが浮かんでいた。なにが油断しすぎなんですかね?お肉食べたいとか声に出てた?
意思疎通が出来ていない2人の、そんな状況を見据えてか、目の前に立っていた少女が助け船を出す。
「先ほどの実技試験、私たちも観させていただいていましたの。敵に気づかずに助けられていた場面。轟さんはきっとその件について仰っているのだと思いますの」
「油断しすぎだお前は」
「え……見てたんですか」
あれを見られてたんですか……と思わず乾いた笑いが出る。
まじか、お肉食べたいって声に出してましたよって言われた方がマシだったかもしれない。
実技試験での、いろんな意味で間抜けな姿を見せたあれをまさか、この2人に見られているとは思っていなかった。
「しかしながら、あなたの個性は素晴らしいものでしたわ」
「いえ……とんでもない」
ショックをうけている私を他所に、あ、自己紹介がまだでしたね。と少女が手を叩く。
少女は手を自身の胸に当ててニコリとほほ笑んだ。
「私、八百万百ですわ。百って呼んでください」
「轟焦凍」
「私は直守知結、よろしく」
百ちゃん……笑顔が素敵だな。さっそく名前で呼ばせてもらおう。
自己紹介を済ませた百ちゃんは、用事があると言って駆け足でその場を後にした。褒めてくれたよ、可愛かったなー。お嬢様のような喋り方だけどなんとなく仲良くなれそうな気がする。彼女が見えなくなるまで手を振っていた。
そしていま、私はこの状況をどうするべきか悩んでいる。
百ちゃんがいなくなり、轟くんと2人きりになったのだが、喋ることが何もないことに気がついた。それならば「じゃあ、また今度」と言って自分も帰れば良い話なのだが、轟くんは私から目を離さず、何か言いたそうな様子であったのだ。
「な、何か顔についてるかな」
「いいや、ついてねぇけど」
「(じゃあ何故顔をガン見している)」
「お前……女だったんだな」
「へ」
「じゃあ、俺も帰るわ」
「え、いや、あの」
「また入学式で」
「あ……うん、入学式」
ポケットに手を入れて歩き出す轟くんに呆然として、見送ることしかできなかった。今、彼は何て言った……?
脳内で彼の言葉がリピートされる。女だった?じゃあ何に見えた。男か?男に見えたのか?
ワナワナと震え、拳を握りしめて、もういない轟くんに向かって叫んでいた。
「わ、私は女だ!!!」
target:八百万百.轟焦凍
(機動力、瞬発力、判断力。あいつ出来るな……)
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