緑色の赤ん坊
「で、その赤ん坊は?」
しつれーしましたと職員室を後にし、地図を広げながら教室に向かっていると、貴之の腕を引っ張る男鹿を発見した。あれ、貴之が男鹿を探してたのに男鹿が貴之を引っ張ってこっちに来ている……?
おーいと2人に手を振ると、気づいた男鹿は俺を見て「広末か……?」と疑問形で話しかけてきたので笑顔で肯定しておいた。
男鹿に向かってただいまと言えば、少し間を置いてから「姉貴がキレてたぞ」と一言。うっわ、マジでか……。
男鹿は俺の様子を見つつも、もう片方の手で首根っこを掴んで再び歩き出した。突然強い力で引っ張られるし、男鹿に聞いても何にも返事が返ってこない。貴之に事情を聞くも「なんかいい方法を見つけたらしい」としか説明されなかった。
相変わらずの行動に懐かしささえ覚えていた時、男鹿の背中にくっつく緑色の頭をした赤ん坊が視界に入る。
え、赤ん坊?裸の赤ん坊は男鹿の背中にぴったりと、自力でくっついていたのだ。
その赤ん坊何?と男鹿に聞いたところ「気に入ったんならやるよ」と言われた。いや、いらねーよ。
「赤ん坊のことは後で説明する!それよりも男鹿!この状況を説明しろ!」
「そうだよ〜、どこ向かってんのさ」
「オレより強くて凶悪でクソヤローを見つけたんだよ」
貴之の問いかけに、表情は見えないが男鹿がにぃと笑った気がした。
そんな、男鹿より凶悪なクソヤローなんてこの世に存在するのかよ……と考えている隣で、やっと解放された貴之が「まさか……!」となにやら心当たりを発見したらしい。
何が何やらさっぱりの俺に貴之はいろいろ掻い摘んで教えてくれる。
「まずこの赤ん坊は男鹿の子どもじゃないんだ」
「なんと」
「で、この子どもは強くて凶悪なクソヤローに懐く。男鹿はこの赤ん坊の気に入る奴を探してるんだ」
「へぇ、それで?」
「ここは不良120%の高校だからな、上には上がいるんだよ」
貴之の説明が一通り終わった時点で、分かったらそろそろ自分の足で歩けと男鹿に怒られてしまった。いや、無理やり連れてきたのお前だけどな!その言葉を飲み込んであとをついていく。
掻い摘んだ説明だったけど、要するに赤の他人であるこの赤ん坊から離れるための人材を探してる途中なんだよな??
俺は背中で先ほどから男鹿をガン見ている赤ん坊に視線を送る。こんな小さいのに、男鹿みてえな野郎が大好きだなんて……ろくな大人にならないぞ。
貴之は目的の人物に合う事を反対しているようで、追いかけながらもずっと男鹿を止めようとしていた。
「ちょっと待てよ!!」
「いや、別に喧嘩しに行くわけじゃねーし」
「いやいや、男鹿あれだろ?最近下剋上しまくりなんだろ?」
あんまり事情の知らない俺でも分かる。男鹿が喧嘩するつもりなくてもきっとあちらさんは……その言葉の続きは言うまでもなかった。男鹿が3年教室のドアを勢いよく足で開けるとそこには、臨戦態勢の先輩方が集結していたのだ。
やっぱり。1年生の男鹿が最近暴れ出してんだろ?貴之から2年幹部もフルボッコにしたと聞いた。
ルーキーがそんなことしてみろ、あっと言う間に全体に情報が流れて、現段階で番を張ってる奴らは警戒するに決まってんだろうが。
俺が静かにため息をはき、貴之は口をパクパクし、正反対に嬉しそうな笑みを浮かべる男鹿。
2人がドア前に並んでいるもんだから1人廊下にいる俺。ここからじゃあ2人の隙間からしか様子が分からず、話声だけが聞こえてくる。
すると突然何やら状況が変わったのか、貴之が男鹿の肩を持ち始めた。どうやら目的の人物に近づくための策を講じているようで、男鹿がしきりに「でがすよ!!」と変な敬語を使っていた。
なんだその敬語は……でも、なんだか面白い展開になってきたので俺も参加したい!と2人の背後でジャンプをしていたところ、ようやくあちらさんにも認知されたらしい。ドスのきいた低い声で「そこにいる女もか?」と声がとんできた。
(まさか女って俺のことか?) (あ、椿の事すっかり忘れてた)
前 次
back:topALICE+