3.幼馴染は突然

「にしても、オメーこんな広いとこ1人で住んでんのか?」

 はい、最近一人暮らし始めたみたいです高校生の俺は。にしてもこの状況どうなってるんですかね? 玄関あけたらブレザーという制服に身を包んだ幼馴染らしき2人がいた。あ、これは前回までのあらすじです、ちなみに今は……。


「ちょっと、新一! 勝手に漁らないの!」
「んーな事してねーよ蘭!」

 ほら、みて。何故かいま俺の部屋にいて各々好きなことをしている2人。見たことあるとか覚えてるとか、そんなレベルじゃなくてさ……。


「(名探偵コナンの主要キャラじゃねえか)」

 妹が嬉々とした顔で『漫画の世界にトリップぅー(おんぷ)』って言ってたのを思い出した。いや、思い出したくなんてなかったけどな、これは受け入れるしかない。だって本物が今! 目の前に、俺の部屋にいるんだもの!! て、ことは……あの名探偵コナンの主人公とヒロインが俺の幼馴染(?)ってことになりますがよろしいですか? なんて、豪華な設定!!


「な、なぁ」
「ん? どうしたの真緒」

 恐る恐る声をかけると、新一クンに怒っていた蘭ちゃんは笑顔で振り向く。あああ、オッケー。蘭ちゃん俺の事名前呼びしてんのね、しかも呼び捨て。あの憧れの蘭ちゃんに呼び捨てされてんだけどおおおおお?! 一度は語った事はあるだろう漫画キャラヒロインで誰が一番いいかランキングに指折りの! 蘭ちゃんに!! 俺の心はいま大荒れです。なう、はい。


「いや、なんか久しぶりすぎてさ」

 昔の俺はどんな感じだったかなー? なんて聞けやしませんよね。トリップしたから昔の俺はいませーんなんて。いままでここにいた俺、蘭ちゃんと新一クンの事どうやって呼んでいたのさ。ってかそもそも俺がトリップするまでの俺って存在してたのか? 存在してたとすれば以前の俺とは違うって悟られないように気をつけないといけないのか……? もう疑問だらけ。それとももしかして、以前の俺は存在してなくて、神様が俺にとって都合の良いように捏造してくれてるのかも……?


「真緒?」
「あ、ごめん考え事してた」
「5年も経ってんのにオメーは何にも変わってねーのな」

うんうんと考え込んでいると俺のベッドで小さく「クァ」と欠伸をした新一クンが言う。あ、変わってないかんじですか、良かった良かった。神様ちゃんと俺を基準にしていろいろ捏造してくれた感じっぽいっす。じゃああれかな、蘭ちゃんと新一クンで呼んでたら良いのかな。


「蘭ちゃん」
「んー?」
「新一クン」
「……なんだよ」

 ああ、呼び方あってたみたい。なんだか可笑しいな、マンガの中のキャラと俺、喋ってるよ。可笑しくって「なんでもない」と笑ったら、ニコニコした蘭ちゃんに頭を撫でられた。……撫でられ、た? ピシッと固まってギギギギ……とブリキみたいな動きをしながら新一クンへと視線をやる。や、やばいかも、俺新一クンを敵に回したくねぇよ〜〜! そんな俺の心配をよそに、新一クンは頭を掻いてベッドに、寝転がる。


「蘭ちゃん?!」
「真緒変わってないねー」
「ああああほ、ほんと?」

 「変わってないよ」と笑顔で言う君の笑顔が眩しい。たすけて新一クン。しかし新一クンはチラっと見ただけで本棚に目を向けた。おいおいもしかして撫でられるのデフォだったりするの、まじで?


「や、蘭ちゃん恥ずかしいって」

 ちょっとこの状況は恥ずかしい、いくら憧れの蘭ちゃんで、普段「蘭ちゃんに頭撫でられるとかちょっと夢じゃね?」みたいに語ってたとしても! 実際にやられると嬉しいよりも恥ずかしい気持ちのが先に来てしまった。それに今は俺のが実年齢10くらい年上だからすげえ違和感がある。蘭ちゃんの手をどけて今度は自分の手を蘭ちゃんの頭に置いて撫でる。


「え」
「撫でるのは俺の仕事だから」

ああ、なんかこっちのがいいや、そう思いながら言うとあり、蘭ちゃん顔真っ赤なんだけど。ポポポポポと音が出そうな勢いで真っ赤になっていく蘭ちゃん。そして新一クンいまの間抜けな「え」って声。え、何さ、もしかして新一クンも撫でられたいの?


「え、ちょ、やめ」
「よーしよし」

 いやあ、何だかんだ言ってまだ中学卒業したばっかだもんなー。わかるわかる、ちょっと年上の人に憧れたりする時期だもんね。いいよ、お兄さんが存分に甘やかしてあげますから。ニコニコと新一クンの頭を撫でると「なにすんだよ!」と怒られました。えー…撫でて欲しいんじゃなかったのかよ、なんだ勘違いしたじゃん。

「真緒も同い年だろうが」
「あ、そうでした」
「あっちいって頭でも打ってきたか」
「はははは(生意気)」

 新一クン生意気だな。もっとキザなイメージあったんですけどまだまだ成長期みたい。パッと手を放したときに腕時計の文字盤が見えた。うわ、もうこんな時間か。俺は顔色が戻った蘭ちゃんとまだちょっと怒ってる新一クンに言った。


「学校遅刻するよ?」


(やばいんじゃないのかな……)

 
back両手で掴んで
ALICE+