4.九月○△日(木)

 
 登校初日、過去一番と言っていいほど緊張をしていた。そんな彼の緊張をほぐそうと上鳴は道中、学校のことやクラスメイトの話する。今クラスで流行っていることや授業の進み具合など、身振り手振りで話す上鳴のおかげもあり、真中は転校初日を無事に終えることができたのだ。
 また、上鳴というクラスカースト上位のおかげもあり、学校生活は順風満帆。心配の一つであった授業も特段問題なくついてくことができた。一週間も通えばクラスメイトの顔と名前も覚えられたし、元々明るい性格であった真中もすっかり馴染むことができていたのだ。



「照、昼飯食い行かね?」
「おう、今いく」
 昼休みに上鳴が弁当箱を持って真中の席へと来る。いつもなら数人で机を囲んで食べていたのだが、今日は何処かに移動するらしい。仲良くなったクラスメイトに断りを入れて上鳴についていく。長い廊下を奥まで歩いて階段を昇り、薄暗くなった最上階の扉を鍵ではない何かで開けて入っていく上鳴。太陽の陽射しが眩しい屋上に踏み入れた真中は手でさえぎる。冬に近づくこの時期では考えられないほどの暑さに羽織っておたブレザーを捲り上げる。上鳴はフェンスの傍に腰かけて真中に手招きをした。
「天気もいいから外で食べなきゃ損だぜ照!」
「たしかに、暑すぎるくらいだけどな」
 上鳴の近くで適当に座った真中に、上鳴は空を見上げて”あちぃ”とシャツをパタパタめくる。そうして持ってきた弁当箱を開けながら上鳴は少し照れくさそうにはにかんだ。

「なんかさ、やっと照と一緒に学校生活送れてまじ嬉しいわ」
「俺も。始めは不安だったけどいざ始まると毎日楽しくてしゃーないわ」
「てか馴染むの早すぎねぇ? 気づいたら輪の中心なんだもんな」
「上鳴のおかげだよ。本当、来てくれたのがお前で良かった」
「照……抱いてッ」
「えー、やだよ」
「ひでぇ、さっきちょっと俺にデレてくれたじゃん! 急に冷めんなよ!」 

 上鳴の悲痛な声を適当にあしらいながら、手を合わせて唐揚げを頬張る。他愛ない話をして屋上でご飯を食べるなんて久しぶりの体験に真中も嬉しかったようで、いつもよりたくさん笑う。まだ二年生、これから学校行事は数えられない程あるのだ、まだまだ一緒に過ごす時間はいくらでもある。上鳴に見せてもらった年間行事を見ながらあーだこーだ話す時間はあっという間に過ぎた。
 ふと、真中の目に止まったのは学期末テストの文字。微妙な時期に転校してきた真中だが、勉強に苦労はしておらず前の学校での成績や課題分で前期の成績を免除してもらっていた。しかしこれからはみんなと同じようにテストを受けなければならない。

「そういやこの学校の学期末って、結構難しいらしいけど」
「うぇっ?!」
「……何その反応」
「いや、照が急に変なこと言うからびっくりしただけ」
「変て、学生の本分だし変じゃなくね?」
「そ、そうだよな。別に変じゃねぇよな、でもほら! 今は体育祭の話とかさ他にもあんじゃん?」
「え、会話ぎこちない、きしょい」
「きしょいって!!! ひどくね!?」

 突然ぎこちなくなる上鳴に違和感と気持ち悪さを覚えた真中は少し距離をとる。後で知ったことだが、上鳴は勉強が得意ではなく、でテストでも平均にいけば良いほう。成績も毎度ギリギリで進級しているらしい。まぁ、適当な高校に行くなら別に頑張る必要もないよなと話していたときに上鳴が恐る恐る【雄英高校 ヒーロー科】と書いた進学希望調査票を真中に渡した時、彼は開けた口を塞ぐことができず、サーッと血の気が引いたらしい。





 
back両手で掴んで
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