ふっふっふ、と眼鏡を光らせたシトロンは翻訳機をリュックから出した。

「お任せください!サイエンスが未来を切り開くとき!シトニックギアオン!名付けて改良型ポケモン語翻訳機!」
「おおーー!」
「またネーミングそのままじゃん…」
「面白そうだけど、前のと何か変わったの?」
『そういえば、この間は失敗しちゃったんだっけ?』
「前回の失敗を踏まえ、今回は声のトーンや仕草なのど微妙なニュアンスの違いをより細かく解析できるようにしました!」

シトロンが出したメカは、以前ミアレシティで私のロゼリアが迷子になった時に使った物の改良型らしい。
本当に大丈夫なんだろうか、とシトロンの発明品で何回か爆発を食らっている私は勘のいいロゼリアに目をやる。ロゼリアはシトロンのメカを信用していないのか、じとりと冷たい目をこちらに向けた。

「さあ、ヤンチャム喋ってください!スイッチオン!」

シトロンがヤンチャムへマイクを向ける。ヤンチャムはお互いに目を合わせると、笑顔でマイクに向かって何か話し始めた。

〈君の ものは みんなの もの〉

翻訳機から機械音声が流れる。しっかりと聞き取れ、この間のようにシトロンの名前だけが流れることは無かった。

「どうです!見事翻訳しましたよ!」
「科学の力ってすげー!」
「ほんとにそう言ってるのぉ?」
「よく分かんないなあ。さっきのはサトシが言ったみたいにポケモンフーズ分けてって言ってると思うんだけど…」
『私も分けてって言ってるように思うんだけど。もうちょっと分かりやすい言葉にならないかな?』
「そんなはずないと思うんですけど…。電子頭脳の選ぶ単語のニュアンスの問題かも知れませんね」

シトロンはドライバーを取り出してメカをいじり始めた。ぐるぐるとネジを回している姿に嫌な予感がして止めようと私は声を掛けようと側へと行く。

「やっぱりサトシの言うことが正しいのかなあ」
『シトロンくん、あんまりいじり過ぎたら良くないとおも…』

私が制止の言葉を言い終わる前にメカが光り爆発した。近くにいた私は見事に巻き込まれてヂリヂリになってしまった。
私の横にいたロゼリアは"まもる"を使って自分だけ免れたようで、そんなロゼリアを見て苦笑いをした。

『ケホッ、シトロンくん。だから言ったのに…』
「あははは、すみません。ナマエまで巻き込んでしまいましたね」
『ううん、大丈夫だよ。でも、なんだかこう言うのも懐かしいな。小さい時を思い出しちゃった』
「すみません。昔も今も、中々うまくいかなくて…」
『次は大丈夫だよ。きっと成功する。私はシトロンくんがすごい発明家だって知ってるんだから!』
「ありがとうございます。ナマエにそう言ってもらえるだけで励みになります」

そうして私達が爆発に巻き込まれている間に、セレナはヤンチャム2匹にポケモンフーズを与えていた。
ヤンチャムたちは凄い勢いでポケモンフーズを食べると、次は私達が食べていたランチ、みんなのポケモン達のご飯にも手を付けた。
あっという間に全部食べてしまうとお腹いっぱいになったのか、お腹を抱えて2匹は目の前に座った。

「全部食べちゃった!?」
『私達のランチが…』
「翻訳機は正しかったんですよ!君のものはみんなのものって僕達のランチはヤンチャムたちのものって事だったんです!」
「分かりにくい!」
「てゆーか、お兄ちゃん今更おそーい!」
「やっぱり科学の力ってすげーんだな!」
「まあ、それほどのものですぅ!」

セレナとユリーカがブーイングをして、サトシはまた目をキラキラと光らせた。失敗したのにシトロンはニコニコしながら喜んでいた。

『次はもっと分かりやすい単語で解析できるように作ってね』
「もちろん、お任せください!」

私がそう言うとシトロンはさらに嬉しそうにした。だけど今ヤンチャム達にランチを全て食べられた訳で、ポケモン達はかなりしょんぼりとしていた。
その時、"今よ!"という掛け声と共に頭上からネットが飛んできた。
そのネットはピカチュウ、ケロマツ、ハリマロン、フォッコ、ロゼリアを覆うとすぐさま口が締まり持ち上げられた。

「「「ピカチュウゲットだぜ」」」

ネットの先を見上げると、ニャースの顔の気球に乗ったロケット団がニヤニヤとしていた。
不意討ちが成功したロケット団はふよふよと気球に乗って上空へと逃げていく。
サトシがヤヤコマに追跡を指示するも、コジロウのマーイーカの墨によってそれも阻止されてしまった。

「みんな!追いかけるぞ!」

私達は急いで荷物を片付けると、ロケット団が逃げていった方向へ走り出した。
小さくなるロケット団の気球を必死に追いかけていると、突然大きな音と共に気球が煙に包まれた。

「気球が突然爆発した!」
「じゃあ皆は!?」

下に吊るされていたネットも煙でよく見えない。しかし捕まったポケモン達が爆発に巻き込まれていたら、そう考えるだけで不安がつのる。

「デデンネの力を借りましょう!」
『デデンネの力…?』
「最初にデデンネと会った時、ピカチュウと電気エネルギーで会話してました。それでピカチュウ達の居場所がキャッチできるかもしれません!」
「そっかあ!デデンネ、ピカチュウからの電気をキャッチしたら教えて!」

ユリーカがデデンネにそう言うと、デデンネは頷いた。

「そんな事ができるの?デデンネって凄いじゃない!」
『頼りにしてるね!』
「うん、任せてよ!デデンネ、まずピカチュウの電気を見つけるのよ!分かったわね?」
「頼んだぞ、デデンネ!」

ポシェットからひょこっと飛び出たデデンネは頬袋をぷくっとさせ、ヒゲをパチパチと電気エネルギーを出して走り出した。私達はそのデデンネの後を追う。
どうか、皆が無事でいてくれますように。

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