デュース・スペードの場合




「ね、デュース。私の書いてよ」

ネクタイを締めてジャケットを丁度着ようとしたデュースに話しかける。
朝、お互いに無言で準備するけどデュースのネクタイ締めてからジャケットを着る動作は好きで、毎回手を止めて見ている。

「ハートをか?」
「ん、」

赤いアイライナーを渡して目を瞑っておねだりをする。
途中、薄く目を開けてデュースを見ると恥ずかしそうにメイクをしていて頬が緩んだ。そして目を閉じてデュースがハートを書き終えるのを待った。

「ナマエ。ほら、できたぞ」

デュースがトントンと肩を叩く。ゆっくりと目を開けると目の前にいるデュースが少しだけ恥ずかしそうに、でも満足そうな顔をしていた。不思議に思って鏡でハートの出来を確認した。

「ありがとう、…ってこれスペードじゃん」
「僕はスペードしか書いたことない」

鏡に映る私の目もとには赤色のスペードがあった。今から書き直そうにも、もう時間がないから1限に遅刻してしまう。
これはエースあたりに思いっきり揶揄われてしまう。
はあ、っとため息をついてドレッサーから離れベッドに置いたジャケットを着ようとしたらグイッと後ろに引かれた。

「ハートは、なんかエースと一緒だから…。ナマエには僕と一緒のスペードがいいんだ、なあ、寮長に言ってスペードにしてもらわないか?そしたら毎日でも書いてやる」
「変更届とか全部デュースがしてくれるなら、いーよ」
「ああ!僕に任せておけ!」

嬉しそうにそういったデュースはグリグリと首に顔を埋めてぎゅうっと抱きしめてきた。
時間ないから離して欲しいんだけど、拒めない私も私だなって思った。




デュース・スペードの場合…

「エースじゃなくて、僕と一緒がいいんだ」