「そろそろクローバーにしないか」
朝、俺の部屋のドレッサーの前で頬にダイヤのマークを書く彼女にそう声を掛ける。
俺のスートはクローバーだから当然部屋には黒のアイライナーしか置いてない訳で、今は彼女がわざわざに赤のアイライナーを2本持ちして1本俺の部屋に置いていってる。
彼女の私物が部屋に増えるのは嬉しいけど、3年来の親友を彷彿とさせるダイヤに少しだけもやっとしてしまう。
「…えっ」
彼女の手が止まったと思ったら思いっきりアイライナーがズレて頬にに大きな線ができる。
何やってるんだ、とネクタイを締めたあと彼女の座ってる椅子に手をついて覗き込む。すると耳も首も真っ赤になった彼女がそこにはいた。
ーーああ、そういうことか。
彼女が勘違いしている理由が分かってしまってニヤニヤが止まらない。
「ははっ、違う違う。これだよこれ。クローバーにしたら俺のアイライナー使えばいいだろ?」
トントンと自分の頬のスートを人差し指で叩く。自分が勘違いしていた事をようやく理解した彼女は更に顔を赤くさせた。
「……もう、トレイくんのばか。ずれちゃったじゃん。」
「すまんすまん。俺が書き直してやるから」
彼女愛用のクレンジングをコットンにつけて赤い線が伸びた頬にゆっくりと滑らせていく。そして黒いアイライナーを持ってクローバーのスートを書く。
「よし、できたぞ」
「ありがとう。…ってトレイくん!これダイヤじゃない」
「変更届は俺が出しておくから、クローバーにしないか?」
「…もう、私に決定権なんてないんでしょ」
むぅ、と頬を膨らませながら髪の毛のセットに入る彼女は満更でもなさそうだった。
「ああ、そうだ。ファミリーネームの方も、そのうちな。」
トレイ・クローバーの場合…
「ファミリーネームもそのうち、な?」