お邪魔虫




※監督生(ユウ)が出てきます



ーーー 手紙を書いていたのを見られたかと思った。

放課後、さっそく手紙を書こうと教室で明日提出の課題をやりつつ白紙のルーズリーフとにらめっこする。何て書けばいいかまでエースに聞いておけばよかった。
エースは部活があるらしく、監督生もラウンジのアルバイトでいない。
女子に手紙なんて書いたことどころか人にすら書いた記憶がない。とりあえず放課後に鏡舎裏に来てもらうようにすればいいか、と要件だけを書いた。
できるだけ綺麗に書こうと丁寧にペンを動かす。

「できた、」

我ながら上出来だと思う。これをナマエのロッカーに入れて、明日の放課後キメる。
ぐっと握りこぶしを作り自分に気合を入れる。僕はこのとき背後から近寄る人物に気が付かなかった。

「デュースくん、それ明日の課題?」
「おわぁっ!?ナマエッ??」

突然話しかけられてピクッと肩が揺れる。
僕に話しかけてきた人物は紛れもなくナマエな訳で、慌てて手紙を机の中にしまう。変な汗がどばっと脇から出てくる感覚がした。
平然を装うけど、うまく装えたかはわからない。

「ど、どうしたんだ?」
「明日提出する課題やってるのかなーって。よかったら一緒にする?」

僕の前の席に座り、少し首を傾げてそう尋ねるナマエは今までよりもキラキラ見えた。
好き、と自覚してから初めてのこの距離感にどぎまぎしてしまう。やばい、正直言うとやばい。
頭が真っ白で何を話せばいいか分からない。普段からあまり話せていない方だったけど、いつもどんな会話をしていたかすらも思い出せなくなっていた。

「…デュースくん?」
「あっ、ああ。ありがとう!丁度、ここで詰まってたんだ。」

名前を呼ばれて現実に引き戻される。手紙を書くので必死だったから課題のプリントなんてほとんど進んでいない。僕は適当な問題を指差した。
問題文を見て唇をきゅっと結んで少しだけ考えてる様子のナマエの唇に目が行ってしまう。つやつやでぷるんとしていてほんのり紅く色づいている。どくん、と心臓が鳴った。
さらにナマエは説明をするためか問題文を指差して覗き込んできた。ふわっと髪からいい香りがしてクラっとくる。
横髪が流れてそれが邪魔なのか髪を耳にかける。すると髪に隠れていた小さくて白い耳が現れた。その仕草に僕の心拍数はさらに上がっていく。
かわいい、いいにおいがする、すきだ、だいすきだ、と頭の中で感情がループする。

「でね、ここにYを代入して…、ってデュースくん聞いてる?」

目が離せなくてペンを持ったまま見つめていると、ナマエが顔をあげた。
ナマエの顔が目の前にあり一瞬何が起こってるか分からなくてフリーズする。こ、このままナマエと……。
数秒の間のあと、ハッと我に返り距離を取る。顔に一気に熱が集まる。

「っぁ、、す、すまないっ!」

僕はさっき何を考えていたんだ。
邪な事を考えていた自分に嫌気がさす。そんな自分に活を入れるためほっぺを両手で思いっきり叩いた。
突然の僕の行動にびっくりしたナマエは目を丸くしていた。
頬がジンジンする。たぶん赤くなっているだろう。でもそれが逆に頬を染めている事実を誤魔化してくれていたと思う。

「デュースくん、ほっぺ痛いでしょ?赤いよ」

ナマエの手が僕の頬に触れ、優しく撫でられた。ようやく冷静になれたのにまた思考が止まる。
眉を下げて心配そうに見つめてくるナマエに好きだって気持ちが溢れてくる。僕は頬にあるナマエの手を包むように重ねた。初めて触ったナマエの手は今にも壊れてしまいそうなくらい小さかった。
少しだけ力を加えて手を握ると、ピクッと反応する。頬を紅くしたナマエが目をキョロキョロさせながら手を引いた。

「っ、ご、ごめん。私何してんだろ」
「えっ、いや、大丈夫だ。寧ろ僕の方こそ…」
「ううん、私の方こそごめんね。つ、つづき、しようか」

頬に触れていた手が離れて少し寂しく思う。お互いに課題のプリントに視線を戻すもなんと言えない空気が漂う。
問題なんて一切頭に入ってこなくてナマエに目をやる。するとナマエも僕を見ていたようでばっちり目が合う。お互いに何も言わずにで見つめ合っているとガラッと教室のドアが開いた。

「やっべ、シューズ忘れた!」

ドアを開けた人物はエースで、僕たちは急いで距離を取る。すると自分の席からバスケシューズを取ったエースはニヤニヤしながらこちらへ近づいてきた。

「あっれれ〜、デュースくん青春ですかぁ〜?」
「エース、僕の頭に手を置くな」

僕の頭に肘を乗っけてケラケラ笑うエースは人を煽るのが癖なのか、いちいちイライラさせてくる。
ナマエは少し下を向いて何も話さない。エースのせいで余計変な空気になったじゃないか。

「オイ、子分!忘れ物ってなんだ、早くしないとオレ様がフロイドに締められるんだゾ」
「グリムちょっと引っ張らないで。机の中にある明日提出の課題忘れただけだから」

開いたドアからわらわらと監督生とグリムが入ってくる。監督生の頭に乗ったグリムかグイグイと服を引っ張って急かしている。
僕たちに気づいたのか不思議そうな顔をしながらこちらにやってくる監督生。

「あれ、エースにデュース。それにナマエちゃんも。何してるの?」
「監督生、デュースくんは今青春してるんだよ」
「ほお〜、あのデュースくんがねぇ〜」

エースに便乗してニヤニヤしながら僕の頬をつんつんし始めた監督生。この二人が手を組むとめんどくさい。
僕は大きなため息をついた後、2人の手を退けて口を開いた。

「お前ら部活にバイトあるんだろ。さっさと行けよ」
「へーい」
「はいはーい」

僕が強めにそう言うと、2人ともつまらなさそうな顔で間延びした返事をして教室から出て行った。なんだか、ものすごく疲れた。そして僕はため息をまたついた。

「…デュースくんは、ユウちゃんと仲いいね」
「ん?ああ、いつも一緒にいるしエースもそうだけどマブだからな」
「そっか」

少しだけ俯きがちにそういうナマエは何故か切なそうな顔をしていた。
どうして今そんなことを聞くのか、なんでそんな顔をしているのか僕にはわからなかった。

「…いいなあ」
「?…何がだ?」
「デュースくん、ユウちゃんといると楽しそうだなって」
「そうか?いつも揶揄ってきたりして面倒なだけだ、ってどうしてそんな事、」
「ううんごめん、今の忘れて。私ちょっと用事思い出したから帰るね。途中になってごめん。また明日」
「ちょ、、おいっ」

ナマエはそう言うと足早に教室を出ていってしまった。エースと監督生が入ってきたあたりから少しだけ様子がおかしかったような気がした。でもこの時の僕はそれほど気にしていなかった。
そしてナマエのロッカーに手紙を忍ばせて教室を後にした。

明日、、明日だ。