双子のウツボとクマノミ



「ありがとう、ジェイドくん!」
「いえいえ、最近どうですか?そろそろ効果が現れてくる頃かと。」
「凄いよ、これ。アズールくんから貰うスキンケア使ってから毎日お肌ぷるぷるなんだ。」

そう言って私は肌を触る。あのヴィル先輩も使ってるらしい化粧水の効果は凄かった。わずか数日で乾燥気味だった肌は赤子のようなもち肌になった。
加えて化粧のりが良くなって、お化粧がさらに楽しくなった。日に日に感じる変化にとても嬉しくなる。それも全てラギーくんのためだ。

「それは良かったです。あ、髪に木の葉が付いていますよ。」

私は丁寧にお辞儀をして顔を上げると、ジェイドくんがさっき吹いた風で私の頭についたらしい葉っぱを取ってくれた。
かなり上の方にあるジェイドくんの顔が近くなってドキッとする。もし、これがラギーくんだったら私は熟れた林檎のように顔を紅くさせていただろう。

「ありがとう。私、1限あるからそろそろ行くよ。それじゃあね!」
「はい、またお渡しする時は連絡しますね」

別れ際にジェイドくんは上の方を見ていた気がするけど、私は"もしラギーくんだったら"と妄想世界に浸っていたのでそんなことなど気にも止めなかった。


*


いらっしゃいませ、とギャルソンの服を着た生徒達が出迎えてくれる。
そのほとんどはオクタヴィネル寮生だけど、ちらほら他寮生も見える。トランプのスートマーク付けた子や獣耳がついた子、などなど。

私はあの日以来、2週間ぶりにラウンジに来ていた。アズールくんの指示は指名と差し入れをやめる、たったそれだけだったのだけど何となく行きづらくて結構な日にちが空いてしまった。
ラギーくんは私が来なくなった事気づいてくれてるかな。なんて思ってしまうのは流石に女々しすぎるか。

私が受付に行くとそこには気だるそうに肘をついているジェイドくんと瓜ふたつの顔が座っていた。

「いらっしゃいませ〜。あ、クマノミちゃんじゃん〜。」

私に気がつくとヒラヒラと手を振ってくれるフロイドくん。働いているはずなのに、こんな態度でも様になっているしそれが許されてしまうフロイドくんに毎回感心してしまう。
フロイドくんには初対面の時にクマノミちゃんというよく分からないあだ名を付けられてしまったが、今ではもう訂正する気もない。慣れとは怖いものだ。

「今、コバンザメちゃん空いてるから指名でいいよね?」
「えっと、あー…。今日は指名無しでもいいかな?」
「え、は?マジ?前まで、あーんなにコバンザメちゃん追いかけてたじゃん。」

私がラギーくんを指名しなかったのが相当びっくりしたのかフロイドくんは目を丸くした。しかしそんな表情もすぐに消え、ヘラっとした顔に変わる。

「もしかして飽きちゃった?コバンザメちゃん、かわいそ。ちょーおもしれぇ。今さあ、お客さんそんな居ないしジェイドでも指名しといてあげるよ。」
「いや、別にジェイドくんじゃなくても…」

やんわり断ろうとした私を気にもせずフロイドくんはタブレットをタップした。
指名人気No.1のジェイドくんをそんな風にできるのは双子であるフロイドくんとアズールくんだけだろう。
ジェイドくんは忙しい時はそれはもう引っ張りだこなのを私は見ていたから何だか申し訳ない気持ちになる。

「じゃあ、クマノミちゃん4番のソファ席ね。行ってらっしゃい〜。」

またヒラヒラと手を振ってフロイドくんは送り出してくれた。案内係のスタッフの後ろをついて行く。
もうすっかり慣れてしまったラウンジの光景だったはずなのに、1週間も来てないと何だか懐かしく感じた。

「いつもご来店ありがとうございます。指名を頂きましたので本日は、この僕がおもてなしいたします。にしても僕を指名だなんて、ふふふ」
「いや、それはフロイドくんが勝手に」
「分かってますよ。メニューを置いておきますので、お決まりになりました、また呼んでください」

そう言うと丁寧にお辞儀をしたジェイドくんはテーブルを離れた。なんだか、いつもラギーくんを指名しているからかジェイドくんの対応にムズムズする。

「これが指名人気No.1…。」

こういう丁寧なお姫様みたいな対応もたまにはいいかな、と思いメニューを開いた。



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