乙女的願望



"ケイト先輩!占星術教えてくださいっ"

"ケイト先輩、よかったらお昼一緒に食べませんか?"

"ケイト先輩はどんな女の子が好みですか?"


入学して早々、ナマエちゃんはちょこちょことオレの所にやってきては笑顔を振りまいた。
ナマエちゃんがオレの事好きだなーってのはだいぶ最初の方に気づいた。
凝りもせずにわざわざ3年生のオレの所にほぼ毎日来てたら誰だって気づくでしょ。
そんなナマエちゃんは気がつくとオレの心の中にスッと入り込んできてらウィンターホリデーに入る前に告白された。
オレを薔薇の庭に呼び出したナマエちゃんは頬を薔薇と同じくらい真っ赤に染めて、でも瞳はまっすぐオレを射抜いて想いを口にした。

「ケイト先輩、好きです。私と付き合ってください」
「…ナマエちゃんの気持ちは凄い嬉しいんだけど、ちょっとだけ時間もらってもいい?」

正直どうしよっかなって思った。今までだったら適当にOKするか断ってた。
時間を貰いたい、とは単純にナマエちゃんに本当の自分を見せてないのに、そんな状態で付き合っていいのかと考えたかっただけだった。
実際のところ、ナマエちゃんが好きなオレは"皆の前にいる時のオレ"で"本当のオレ"じゃない。本当は上っ面だけ取り繕って他のものなんか興味ないオレなんかじゃない。
柄にもなくナマエちゃんには本当のオレを見てほしくて。そう思うくらいには既にナマエちゃんに溺れ始めていたのかもしれない。
目の前のしゅんとしおれた表情をしたナマエちゃんにオレは心苦しくなった。


*


ホリデーが開けてもオレはナマエちゃんからの告白を保留していた。相変わらずちょこちょこやって来るのが日常で告白なんて無かったかのようにすら思えた。

ある時、オレはふと素を出してしまった。それは何故か寝れなくて何か飲み物を取りにキッチンへ向かった夜だった。
ホットコーヒーを入れてぼーっとスマホをいじる。深夜だからかスイッチは完全に切れていて、心の声が漏れる。

「はぁ。投稿ネタ尽きてきたからまた何か探さなきゃ。………だる。」

そう呟いてスマホをテーブルに置き、マグカップに口を付けた。すると突然入り口辺りからガタっと音がして、そちらを見るとナマエちゃんがいた。
ーーあ、今の聞かれた?
とりあえずスイッチ入れるかのように、カーディガンのポケットに入れていたピンで前髪を上げる。

「ナマエちゃん。どーしたの?」
「何だか眠れなくて。ケイト先輩も眠れなかったんですか?」
「んー、まあそんなところ」

そっとオレの隣に来たナマエちゃんは、メイクもしてなくていつもより幼い顔をしている。ふわふわのピンクのカーディガンがよく似合っていた。

「…ねぇ、さっきの聞いてた?」

意を決して聞いてみると、返事はせずにこくりと頷くナマエちゃん。
あー、見られちゃってたか。さっきのは完全OFFだったので、何とも言えない感情がオレの胸をぐるぐるする。
わざと戯けるようにあちゃー、と手を額に当てて上を向く。

「さっきの、忘れてくれたりしない?」
「どうしてですか?」
「えっ、あー、いや。その…」

オレをしっかりと捉え、純粋無垢な瞳で見つめてくるから何も言えなかった。どうして、なんてオレのイメージ問題になるからだって言えたのに言えなかった。
だけど口止めくらいはしておかないと。しかし、ナマエちゃんもさっきオレの素を見てる訳だ。もしかしたら既に幻滅されてるかもしれない。

「いつものケイト先輩もいいですけど。私は今のケイト先輩もいい、と思います」
「…どうしてそう思うワケ?」
「こないだは言わなかったんですけど、新入生歓迎パーティーの後に薔薇の庭でケイト先輩のこと見ちゃって。その時もさっきみたいな素?っていうんですかね、そんなケイト先輩で…」

既に1回見られてる事に驚く。そうしても尚、オレに好意を寄せているナマエちゃんが心底不思議で仕方なかった。
普通は嫌になるでしょ。

「その時、どくんって凄い胸が鳴って、それからケイト先輩から目が離せなくなってて。その時にケイト先輩のこと、…すき、になったんだと思います」

少し俯きがちにそういうナマエちゃんのほっぺはだんだん紅く染まっており、行き場のない手は前で繋がれもじもじさせてるいた。
ホリデー前の告白から幾度となく告げられる好きの2文字が、ようやくじわじわとオレの胸を熱くさせた。
ナマエちゃんは最初からオレのことちゃんと見てくれてたんだ。そう思うと、心の中にあったしこりがスッと消えていった。
オレは手に持っていったマグカップを置き、取り繕うこともなくなったのでピンを外して前髪をおろした。

「ねえナマエちゃん」
「なんです、 ッん…」

こっちを向いたナマエちゃんの唇にオレの唇を重ねた。初めて触れるナマエちゃんの唇は見た目の通り柔らかくて、キスした時にふわっとシャンプーの香りがした。

「オレら付き合おっか」



タイトル︰「確かに恋だった」


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