間に合って、恋心





ケイト先輩に避けられてる、そう感じたのは二週間くらい前。いつも私がお誘いしたら断られることなんて、ほとんどなかった。
最初は課題とかフラミンゴの世話とか本当に信じてた。けど、ここまで来ると避けられてるとしか言いようがない。
気がつくと、ここ1ヶ月くらいはまともに会話すらしていなかった。


(完全にケイト先輩に嫌われた。)
(やっぱりお菓子持っていったのが良くなかったのかな。)

このままだと自然消滅してしまう。こんなに好きなのに何もできずに終わってしまうのがやるせない。
いつまでもネガティブな思考が止まらず、大きなため息が出た。

「おっ、ここにいた。今からタルト作るんだ。ナマエも手伝ってくれないか?」

談話室の端で紅茶を飲んでぼうっとしてるとトレイ先輩が話しかけてきた。
ケイト先輩に避けられてるって気づいてからお菓子もまともに作ってない事を思い出す。前はあんなにお菓子を作るのが楽しかったのに。もう作る意味すらも分からなくなっていた。

(せっかくトルイ先輩がお誘いしてくれたんだし、気晴らし程度にはなるかもしれない。)

そう思い、私はお誘いを承諾した。


*


寮のキッチンでタルトを作り始める。お互いに無言でテキパキと作業を進めていく。そしてタルト生地をオーブンにいれ、焼きあがるまで待つことになった。

「トレイ先輩は、ケイト先輩が甘い物苦手だって知ってたんですか」
「お前、それどこで…」
「やっぱり、そうなんだ。エースからこの間たまたま聞いちゃって…」
「…、なるほどな」

よく分からないけど顎に手を当てて何かに納得したトレイ先輩。トッピングのいちごを冷蔵庫から取り出して、手際よくフルーツナイフで綺麗にカットした。

「なんで、教えてくれなかったんですか」
「ケイトから聞いてなかったんだろ?本人から聞いてないのに俺から言うのは違うんじゃないか」
「でも!言ってくれてたら、ケイト先輩に無理して食べさせることも…」
「ケイトは無理なんかしてなかったよ。むしろ逆。会うたびにお前が作ったお菓子の写真見せてくるくらいには楽しみにしてた」

ケイト先輩は私がお菓子持っていくの嫌じゃなかったのか。
トレイ先輩の言ってることが上手く噛み砕けない。だってお菓子持っていくのが嫌だから、私にうんざりして避けていたんじゃないのか。

「じゃあ。なんで、私を避けて…」
「例えばだ、もしケイトが自分以外のしかも女の子の所にお菓子持って行って楽しくティータイムしてたら、ナマエはどう思う?」


(もしかしてリドル寮長の所に持っていってたのが原因?)

持っていったと言っても、ケイト先輩が甘いものを苦手だと言ったあの時1回きりだ。
それにケイト先輩今までそういうヤキモチとかほとんどなかった。確かに寮長といる時は変な感じだったけど。

「でも、ケイト先輩ヤキモチとかそういうの全然っていうか」
「…リドルだからだよ」

ピー、とオーブンがタルト生地が焼きあがった事を知らせる。トレイ先輩がタルトを取り出すと、いい香りがキッチンに広がる。

「それってどういう、」
「リドルとケイト、2人の関係は良好だ。だけど、少なくともケイトはリドルに引け目を感じてる」
「なんで、ですか」
「俺からはこれ以上は詳しくは言えない。本人が話したがらない事を言う必要はないからな」

肝心な事は何も教えてくれないトレイ先輩にもどかしくなる。余計に分からなくなってしまい、頭の中がぐっちゃぐちゃになる。

「ハハッ、分かんないって顔してるな。まあ、ケイトはナマエとの関係は終わらせたくないと思ってるよ。だって甘い物が苦手なのを隠してまでお前の作ったお菓子を笑顔で食べてたんだ」
「トレイ先輩。…私、どうしたらいいですか」
「今のお前達には話し合う事が大事なんじゃないか?ケイトと面と向かって話してこい。今日は軽く部活に顔出すって言ってたから、あと1時間もしたら帰ってくると思うぞ」

ケイト先輩はちゃんと話してくれるだろうか。私はこのままなんて嫌だから、無理矢理にでも話しを聞いてもらおう。
そう決めてトレイ先輩を見るとふっ笑い、眼鏡のブリッジをあげた。

「私、ケイト先輩のところに行ってきます!」
「頑張れよ。あ、それとタルト作るのを手伝ってくれたお礼にもう1つ。ケイトの好きな食べ物は、激辛ラーメンだ」

トレイ先輩に深くお辞儀をすると私はキッチンを後にした。向かう先は学園の購買部。目についた赤いパッケージのカップ麺を何個か買って寮へ駆け足で戻る。

ケイト先輩の部屋の前まで来ると緊張で震えてきた。ドアをノックしようと右手を上げたとき、後ろから声がした。

「…ナマエちゃん」





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