ホイップ増し増しで



「ねえ、これどうすんの」
「んー、んーとね。それここ間違ってる。まずここで使う公式が違う。こっちじゃなくて」

オレがやってるワークをのぞき込んで解説する。
近いなあ、なんて邪な事を考える。オレがそんなことを考えてるなんて知らないナマエはサラサラと問題文に書き込みを入れていく。

「で、なんでこっちの公式使うかっていうのは見分け方があって、…って聞いてる?」

あっ、聞いてないのバレた。
オレが真面目に聞いてないのが不服みたいで眉間に皺が寄っていき、オレを睨む。

「私の貴重な時間使って勉強見てるんだから真面目にやりなよ。私にはトラッポラくんをオール90点にするノルマがあるんだから」
「あー、いや、ごめん。てか何でそんなやる気なの。俺的には超ありがたいんだけどさ」
「前に勢いで言っちゃったのもあるし、トラッポラくん最近午後サボってるじゃん?わたし的には話相手できて楽しいんだけどさ、それで成績悪くなって文句言われるの嫌じゃん?」

オレが最近屋上に入り浸っているのを気にしているみたいだ。何だかんだ言って優しいとこあるんだよなあ。
でも最後の1言は完全に余計だ、もっと素直になればいいのに。

「オレってそんな文句言うように見えてんの」
「うん。文句しか普段言ってないじゃん」
「あのなあ、」
「まあ、半分は冗談だけど。それに人に教えるのは元々好きだし、教えると自分の復習にもなるからね」

半分は本気かよってツッコミをしようと思ったけどやめた。
それより普段の彼女からは想像もできない真面目なワードが出てきたことにびっくりする。

「へぇー、意外と考えてんのな」
「なにそれ、心外すぎるんだけど」
「オレのナマエのイメージっていちごミルクいつも飲んでて屋上でサボってるから」
「普段はそうやって英気を養ってるの」
「いいように言ってるけど授業だるいだけだろ単純に」
「そうとも言う、かもしれない」

そもそも屋上であんなサボってる癖に成績良いってだけでもチートなんだよ。
オレが呼びに行ったあの日もあっけらかんとしてたり、むしろオレを巻き込んでサボらせた挙句に勝手に帰ったり。それにナマエは屁理屈ばっかでなかなか扱いが大変だ。

「ふはっ、そうしか言わねえよ」
「もう、笑ってる場合じゃないでしょ。ほら手動かして、テスト範囲まだ10ページだよ」

目の前にいるナマエとの会話は飽きない。
このままダラダラ話していたいんだけど、彼女いわく絶賛中間テスト対策中の俺にはそんな余裕はないらしい。
オレだってやればできるしちょっとくらい大目に見てほしいもんだよ。

「ねえ、ナマエー。もうオレ無理。集中力切れた、休憩しようよ」
「まだ1時間半じゃん」
「もうだよ!!もう1時間半!!」

集中力が途切れて机のワークより、目の前のナマエにしか意識が行かなくなっていたから流石に休憩を要求した。
こいつ意外と見てるから進んでなかったら何か言われそうだし。

「はいはい、じゃあ休憩しよっか」

そう言って彼女立ち上がり、おやつを取りに食堂のカウンターに行った。
メニューを見ながら嬉しそうにゆらゆら尻尾を揺らして、何を食べようか悩んでる彼女がここから見えてちょっと頬が緩んだ。こういうとこ可愛いんだよなあ。
そうして帰ってきた彼女のトレーにはドーナツとタピオカミルクティーがあった。
タピオカミルクティーの方にはご丁寧にホイップまで乗ってある。うわ、めっちゃ甘そう。

「ねえ、いつもいちごミルクなのに今日はなんでタピオカなの?」
「うちの食堂何故かいちごミルクないじゃん」
「いや他にもキャラメルとか抹茶とかあるじゃん」
「んー、タピオカが1番しっくり来る甘さ?」
「いやその甘さタピオカじゃなくてホイップでしょ。オレそんなにホイップトッピングする奴初めて見たわ」

どう考えてもホイップの甘さしか残らねえじゃんこれ、と思いながらタピオカミルクティーを飲むナマエを見る。
一緒に持ってきたドーナツもピンク色のチョコがかかっていて、いちご味だということが見てわかる。どんだけ好きなんだよ。

「人の勝手ですぅ。私は頭使うからお馬鹿なトラッポラくんと違って糖分摂取しないと駄目なんでーす」
「はいはい、そうね。甘いの好きだもんねお前」

ナマエの甘いもの好きにいちいち何か思ってたらきりが無いな、と思い適当に返事をした。
そしたら急にじーっとこちらを見てきた。

「なに、どうしたの」
「トラッポラくんがだんだん慣れてきてる」
「何に」
「私の扱いに」
「そりゃどうも?」
「なんか面白くない」

少しだけむすっとした顔でストローをぐるぐるしながらそう言った。いや、面白くないってなんだよ。

「面白くないってオレはお前のオモチャじゃねえよ」
「トラッポラくんが最近余裕ぶってるのがむかつく」
「…余裕ぶってるように見えてるならいいけど」

ナマエには絶対聞こえないような声でボソッと本音を言った。
余裕なんかねえよ。いちいち近いし、飲んでるストローにはピンク色のリップ移っててこないだの間接キスの事思い出すし。
オレだって割といっぱいいっぱいなんだよ。

「えっ何?聞こえなかった」
「何でもねえよ」

なんか、こいつのせいでオレが一喜一憂してると思ったら腹が立ってきたからお皿の上に乗っているドーナツを手に取り齧ってやった。

「あ゛ー!それ私のドーナツ!」
「ふん、普段からオレで遊んでるからこうなるんだよバーカ」

口に広がるいちごのチョコレートが甘い。
これにあんなホイップ増し増しのものを飲んだら口の中で砂糖噛んでるみたいになりそうだ。
ぷりぷりと怒り始めたナマエは俺の手からドーナツを奪い返して皿に戻す。

「トラッポラくんの方が馬鹿だよ、ばーか!!もう休憩終わり!!早くワーク終わらせるよ」
「はっ?待ってまだ10分も休んでないだろ!?」
「もう充分休みましたー」

休憩が10分も無くなったことに絶望する。またこのワークとにらめっこかよ。ドーナツくらいいいじゃんと思いながらシャーペンを持つ。

「ああもう、覚えてろよ」
「ふんっ、そっちがね」

オレは口に残ったドーナツを炭酸で胃に流し込む。
シュワシュワしてる炭酸とともに喉を過ぎ去ったはずなのに、口にはまだ甘さが残っていた。
口の中がこんなに甘いのも全部ナマエのせいだ。



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