図らずしも発覚



やばい、嬉しい。早くアイツに報告しなくちゃ。
1段飛ばしで駆け足に階段を登り、勢い良くステンレスのドアを開ける。
バンッと大きな音がする、がそんな事気にせずいつもの位置に座る彼女に向かって叫んだ。

「ナマエ!!まじでテスト全部点数アップしたんだけど!!」
「トラッポラくんうるさい。大きな音立てたらびっくりするじゃん…」
「まじでびっくりした!!ありがとう!!」

興奮が冷めない俺は全科目の成績を纏められたプリントをナマエの前に出す。
そこにある多角形のグラフは前回よりも大きくなっていて、オレがこの中間テストで成績を上げたことがわかる。

「トラッポラくーん、うるさいですー。私の午後のほのぼのタイム邪魔しないでくださーい」
「あー、ごめんごめん。てか、そういうナマエはどうだったのよ、点数」

オレの声があまりにもうるさかったのか、ぶーぶー言い始めた彼女に今回の中間テストの結果を聞く。
まあ、どうせ上から数えたほうが早いんだろうけど。

「んー、今回割と良かった。ほら、6位。」
「ほんと何で成績いいんだよお前」
「いつもは9位なのに今回はトラッポラくんと一緒に真面目に勉強してたから上がった」

さも何もなかったように話していて、ナマエの次元の違う話にオレがこんなに喜んでるのが恥ずかしくなった。
学年順位1桁ってもっと喜んでもいいんじゃないの。

「ほんとナマエは揺るぎねえな。ほら、これテスト勉強手伝ってくれたお礼」

さっきここに来る前に自販機でいちごミルクを5本買った。
この1週間ナマエにテスト対策してもらって正直ここまで結果出ると思わなかったし、せめてものお礼。オレにはこのくらいしかできないけど。
オレの差し出した袋の中を彼女は覗き込む。するとパアッと顔が笑顔になり、尻尾がゆっくり左右に揺れる。

「えっ、これいいの?」
「うん。好きでいつも飲んでんじゃん。5本しかないけど」
「ううん、すごい嬉しい。5日分のいちごミルクはありがたい!」
「ふはっ、めっちゃ顔緩んでんじゃん。買ってきて良かったわ」

珍しくゆるゆるな顔でピンクのパッケージのいちごミルクを眺める彼女。なにその顔、初めて見た。
そんな顔してくれるなら次来るときもいちごミルク持ってきたくなるじゃん。

「私の生命維持にはこれは欠かせないのだよ、トラッポラくん」
「ハイハイ、ソウネー」
「むっ、いちごミルクの良さを分かってないなあ」

ぶつぶつといちごミルクの良さについて語り始めたナマエの話を半分聞き流しながら彼女の隣に座る。ここで初めて会った時よりも近くに。

「ところで、トラッポラくんはなんで私の隣に座ってるの?」
「オレもこれからほのぼのタイムしようかなって」
「授業出なよ」
「うわっ、お前に1番言われたくないセリフだわ」
「私みたいになんない方がいいよ、ここでいるよりさ教室で学べる事もあるじゃん?」
「それ、そっくりそのまま返す」
「もう、テスト良かったからって調子に乗っちゃだめだよ」
「はいはーい」

これもいつものやり取り。口ではこう言ってるけど、最近、ナマエはオレが来るとすこし少し嬉しそうな顔をして尻尾がゆらゆら振る。
流石にいちごミルク見たときには負けるけど、でもこれはオレの勘違いじゃない、と思いたい。
そしてオレは今日ここへ来た本当の目的の為に話を切り出した。

「なあナマエー」
「ん、なに?」
「お前、"星送り"どうすんの?」
「流石に見に行くよ。私、割とああいう行事好きなんだよね。星願いを、とか叶うはずないのは分かってるんだけど何故か願いたくなる」
「めっちゃ意外。『科学的根拠ないし寮でのんびりする方が有意義』とか言いそうなのに」
「うわ、バカにしてる?"スター・ゲイザー"じゃなかったら、星送りも楽しいイベントになるの」

ナマエの"星送り"に対する気持ちが意外でびっくりしてしまった。やっぱ女子ってみんな占いとかそういうの好きなんだな、と勝手に納得した。

「ナマエはさ、星送り当日とか誰かと見に行くの?ナマエが他の奴と一緒にいる姿全然想像つかないんだけど」
「なにそれ。流石に友達くらいいるよ。星送りは友達とちょっとだけ見て、疲れたら寮に避難しようかなって。人混み苦手だし」
「うわー、ぽいわ。ってかお前って星送り一緒見てくれる友達いたんだな」
「それこそバカにしてるでしょ。心外だなー、傷ついたー」

ナマエの回答に少しだけ安心する。彼氏と見ますとか言われたら即ゲームオーバーだった。
とりあえず第一段階はクリアした。そしてオレは意を決して本題を口にする。

「それよりさ今年の"星送り"、…オレと一緒に見てよ」
「やだ」
「即答かよ。流石に即答は傷つくわ」

ニコニコした笑顔で否定された。その笑顔も可愛いけどさ。
あっさりと玉砕したけど、諦めきれないからここからは駄々をこねる作戦に切り替えようか考える。

「トラッポラくんはさあ、友達いないの?」
「友達くらいいるわ、お前に言われたくねー」
「スペードくんとかといつも一緒じゃん。その人たちと見なよ」
「デュースはスター・ゲイザーで無理なの。てかお前、今年のスター・ゲイザーが誰かすら知らないのかよ…」
「ん、だって集会行ってないもん。友達から私じゃないってのだけ聞いたくらい」

相変わらずそういう事への参加はほとんどしないナマエに呆れた。はあ、とため息が出る前にオレはナマエの言ったことが少しだけ引っかかる。
さっき、デュースの名前言ってなかったか?

「えっ、何でデュースの名前は認知されてんの!オレの時うろ覚えだったじゃん!?お前ら仲良かったの?オレなんも聞いてないんだけど。」

オレの名前は覚えてなかったくせにデュースは覚えてるとかちょっと傷ついてしまう。
一緒に見ようというお誘いも断られて、何故かデュースの名前は覚えられててダブルパンチ状態だ。

「スペードくんはミドルスクールが一緒だからねえ。トラッポラくんってスペードくん以外に友達いないんだね、可哀想に。ぼっちッポラくんだ」

いやいや、ぼっちッポラくんってなんだよ。
ミドルスクールの同級生なら早く言えよデュース、と心の中でデュースに悪態をつく。
オレはどうしても一緒に見ること諦めきれない。この際だからぼっちは甘んじて受け入れよう。
これで断られたら当日屋上に乗り込んで、無理矢理にでも連れ出してやる。

「…ぼっちだからお前誘ってんだけど」
「ねえ何でそんなに私を誘うの?私とそんな見たい?…あっ、もしかしてトラッポラくんって私のこと好きなの?」

あっ、、。
こっちを見ずにいちごミルクを飲む彼女が確信をついた発言をして何も言えなくなる。少し揶揄うような言葉に本気で言ってないのは分かってる。
けど、いざ口にされるとかあっと顔に熱が集まる。どくどくと心臓がうるさい。なんでこういう時だけ察しいいんだよ馬鹿。

「ウソウソ冗談じゃん。ねえ、何か言ってよ…って、え?」
「……こっち見んな」

オレが黙ってるのを不審に思ってこっちを見ようとするから、俯いて手の平を向け少しでも見えないようにする。

「顔真っ赤じゃん、うそ、本気?」

それでも俯いているオレを覗きこんでくるので顔が赤くなってるのがバレた。最悪だ。こんなことになる筈じゃなかったのに。

「ああ、そうだよ!だからお前を誘ったの!」
「……な、にそれ。聞いてない、し、そんなの」

恥ずかしくて彼女の顔がまだ見れないから目の前の空気に向かってヤケクソで叫んだ。
今、ナマエがどんな顔でどんな気持ちで聞いてるかなんてオレには分からない。

「言ってないのは当たり前だっつーの。ほんとはこんな感じで言うつもりなかったし」
「…なんか、ごめん」

戸惑った声で謝罪する彼女。オレはどうとでもなれ、と思いバッと彼女の顔を見る。
すると紅く色づいた頬が目に入る。きゅっといちごミルクのパックを握りしめ靴を見つめていた。

「……なあ、お前も耳まで真っ赤じゃん。これ期待していいの?」
「…うっさい、馬鹿。私帰る。」

そういうと彼女は突然立ち上がり、鞄を持って屋上から出ようと歩き出した。
びっくりしてオレも立ち上がるが羞恥心やら色々な感情が入り乱れて何もできない。
何か言わなきゃ、と思い口を開くと何とも情けない声と共に弱々しい発言をしてしまった。

「えっ、はっ、返事は!?こんな感じになったけどさ一応、返事欲しいんだけど」
「…そんなの知らない!!」

彼女はそう言うとバンッとオレが入ってきた時と同じくらい勢いよくドアを閉めた。まずいことを言った自覚はある。
そもそもこの気持ちがバレた時点でもうまずい方向には進んでた。でも帰ることないじゃんか。
オレはガシガシと頭をかいてどうしようか考えるけど何も思いつかなかった。


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