少女、自覚する。



お昼休みに私は友達と中庭で昼食を取っていた。
メロンパンが大好きな私は今日はチョコチップ入りのものを食べてる。
ほんとはいつも彼女と屋上でお昼を食べてるんだけどあの間の一件以来、私は屋上に行きづらくなっていたので最近は中庭だ。

「ふーん、それでアンタは逃げてきたんだ」
「…うん。逃げてきた」
「まあソレはトラッポラくんが悪い。あの場でもっとビシッと言ってナマエのこと引き止めれば良かったのに」
「良かったのにって何よ」
「もう分かってんじゃないの?ほんとはトラッポラくんの事、」
「ああ、もう言わないで。自分でも分かってるから」

分かってる。
でも私はこの自分の気持ちを受け入れたくなかった。2人でいるあの空間が好きだったから。それをアイツ、エース・トラッポラという男はいとも簡単に壊した。
ぐるぐるといちごミルクを飲みながら考えていると、目の前の彼女はニヤニヤしながら私をのぞき込んだ。
あー、なんか嫌な予感。

「で、どこが良かったのよ。トラッポラくんの」
「んー、分かんない。最初は話しやすくて揶揄いがいのあるオモチャみたいな」
「相変わらずサイテーだね」
「サイテーで悪かったね」

もともと揶揄い半分で構い始めたのにこんなことになるなんて思ってなかった。
そりゃ最初から私の懐にズカズカ入り込んで来てる感じはしたけど嫌じゃなかったし、彼といると楽しかったのは事実だ。
あー、考えると頭使う。糖分取らなきゃ。

「それにしても、あんだけ他人に興味のないナマエがねえ」
「自分でもびっくりだよ、気がついたらトラッポラくんが屋上に来るの楽しみにしてて、来ない日は寂しいなんて思っちゃったんだよね」
「ふぅん、もう大好きじゃんそれ」
「うるさい」

恋の相談なんて何年ぶりにしたか分かんないけど、いつもニヤニヤしながら聞いてくる彼女は厄介だ。
人で弄んでるよほんと。手元のいちごミルクを飲むペースがいつもより早い、あーこれもう一本買わなきゃなあ。

「恋は人を変えるね。ナマエのこんなとこ見たことないよ私」
「うるさい」
「で、アンタはどうしたいの?そのまま逃げてきちゃって、それっきりなんでしょ」
「…わ、かんない」

どうしたいのかなんて分からない。
確かにトラッポラくんの事は好きかもしれないけど、これ以上彼を知ってしまうと元には戻れない気がするんだ。
だがらこの感情を見てみぬ振りをしてるのは事実だ。

「はあ、分かんないって…。今のままじゃ終わっちゃうよ?屋上にも行かずに、教室でも喋らないまま。"星送り"もどうすんのよ。私はスター・ゲイザーなんだから、ナマエと一緒に見れないのよ?」
「そしたら、寮で寝とくよ」
「それじゃ何も進まなくない?」
「でも、もうどんな顔して会えばいいか分かんない」

この間あんな帰り方したら気まずくなるのは見えていた。だけどその場に居たくないのとむず痒さが勝ってしまって勢い良く出て行ってしまった。
もしかしたら、あの態度で愛想をつかされてしまったかもしれない。
なんてネガティブな考えに陥る。本当に私らしくない。

「あー、もう考えるのやめた。疲れた。午後の授業やっぱり出るのやめるよ」
「え、どこ行くの?屋上は行かないんでしょ?」
「んー、保健室あたりで寝とく。じゃあね」

丁度予鈴が鳴る5分前だったし、授業が始まるまでに保健室にはたどり着ける。
私が新しく見つけた保健室には基本的に先生はいないから新しいほのぼのタイムにはぴったりだった。
さっき散々考えたから頭が少しだけ痛い。
糖分補給をしようと自販機に寄るといつも売り切れることの無いいちごミルクに赤くSOLD-OUTのランプが付いていた。

「なんでこういう時に限っていちごミルクないのよ馬鹿」





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