少年の苦悩
「…いない」
あの日以来屋上へ行ってもあいつはいなかった。
確かにあの流れで告白したのは完全に予想外だった。
でもあんな逃げ方する事ねーじゃんか。
昨日は昼休みも午後も屋上にはナマエはいなくて、珍しく授業に出ていたから目が飛び出るほどびっくりした。
今日もわざわざ屋上まで来たのに、お目当てのナマエが居なくてオレは肩を落とした。
食堂にデュースと監督生がいるだろうし合流するか。それにデュースには聞きたいこともある。
こうしてオレは屋上を後にした。
「なあ、デュース。ナマエとミドルスクール一緒ってほんとー?」
語尾を少しだけ伸ばして何気なく話しかける。オレはカツサンドを乗せたトレーをテーブルに置き、デュースの隣に座る。
「ん?ああ、そうだけど」
「なんか知らない?」
オムライスを食べていたスプーンが止まる。
不思議そうな顔で少し考えたデュースは、スプーンの上に乗ったオムライスを一口食べてこう言った。
「エース、話が読めないぞ。そもそもミドルスクールが一緒ってだけでナマエの事知ってるも何もないだろ。話したことすらない」
返ってきた答えは予想通り過ぎて、絶賛悩み中のオレには何1つ役に立たない。
少しだけイラッとしたから毒を吐いてやった。
「元ヤンのデュースくんは女子にまともに話しかけれないもんな。まあそうだよなあ」
「それは今関係ないだろ」
「まあまあ、二人とも。というか、デュースよりエースの方が知ってるんじゃないの?色々と当事者でしょ?」
デュースの向かいでドライカレーを食べていた監督生がそう話に入ってくる。
隣にいるグリムは目の前のチキンに夢中で、オレ達の話など一切聞いていないようだった。
「何で監督生が知ってんのさ。まあ、原因の10割オレなんだけどさ」
監督生っていつも察し悪い馬鹿なのに、何でこういう時だけ察し良いんだよ。
そう思ってカツサンドにがぶりと噛み付いた。
あー、これ足んねえな。パン追加で持ってこようかな。
「そりゃ最近、午後あんまり出てないんだから気づくよ。何かあったか詳しくは分からないけど、僕でよかったら話は聞くよ」
「いやあ実はさ…」
こんな話を監督生にしてもいい答えなんて返ってこない気はする。
だけど今のオレは誰かに聞いてほしかったんだ。
「なるほど。勢い余って告白しちゃった、と」
「いや告白はしてない、な。好きだって思ってることがバレたが正しい。
まあ、そんなんこの際どっちでもいいわ。いつもいる屋上にはいないし、何なら午後の授業も真面目に出てるし?教室だとめっちゃ話しかけるなオーラ出してるし?」
1回話し始めたらバケツをひっくり返したかのようにどんどんと思っている事を話してしまう。ほんとオレらしくない。
「オレ嫌われたのかなー。なあ、どう思う?そもそもあんな顔真っ赤にさせてたら誰だって期待すんだろ?オレなんか間違ってんのかな!?」
「落ち着けエース。ここは食堂だぞ」
なんか頭の中がグチャグチャでイライラしてくる。
だんだんと声のトーンも大きくなって、手にあるカツサンドを握りしめる力も強くなった。
「これが落ち着けるかっての!今まで少しずつ育ててきたものがこうも無残に散ったんだ。しかもちゃんと告白する前に!!」
「エース!取り敢えず座って。まだ振られた訳じゃないんでしょ?」
ついに、ばんっとテーブルを叩き立ち上がってしまった。それを監督生に制止される。
焦って誰か聞かれていないか周りをキョロキョロして確認するが、各々がランチを楽しんでいるようだった。
オレは、はあっと大きなため息をついてイスにどかっと座った。
「もう、振られたようなもんだろ。あー、なんであんな事言っちゃったんだよオレ。こんな事ならもっと真面目に願い星にお願いしとくんだった」
「もう言ってしまった事は仕方ないよ。ほら何かいい方法探そう?」
「普通に星送り当日に誘いに行けばいいんじゃないか?」
「そんな簡単にできたらここまで悩んでないっつーの」
監督生はともかくデュースの発言に呆れてしまって、カツサンドを全部口に入れると席を立った。
「あっ、エース!次、近代魔法史だよ!」
「んー、オレ体調悪いってことにしといて。保健室行ってくる」
「え、サボるの!?ちょっと、エース!」
監督生が後ろからとやかく言っているが全部無視をした。
どうせ今、授業に行ったところで窓の外をただ眺めるだけになる事くらい分かりきっていたから。