眼鏡の女の子






鬼殺隊後処理部隊、隠。黒子装束を身に纏った彼らは、鬼と剣士の戦いの後処理や隠蔽、救護を行っている。剣才に恵まれなかった者や何らかの事情で戦いの前線に行けなくなった者たちがその役目を担うのだ。
今日も鬼と戦う隊士がいる限り、隠はそこに駆けつける。


「後藤さん、南西の方角に負傷した隊士がいるようです! 」
「ミョウジ、急ぐぞ! 」


隠のミョウジナマエは、先輩の隠である後藤と任務でとある山に入った。隊士の鎹烏が一羽飛んできて二人を案内する。


「おい大丈夫か! 」


傷だらけの隊士が二名、木陰に倒れていた。ミョウジと後藤はそれぞれ安否を確認する。後藤が診た隊士は頭を強く打ったようで、意識が無い。


「大丈夫ですか、聞こえますか! 」


ナマエが木の幹にもたれ掛かるように倒れていた隊士に、肩を軽く叩きながら声をかける。隊士は薄ら目を開けた。


「…鬼は」
「他の方が倒されました」


するとその隊士は顔を顰め、「クソッ…! コイツが足引っ張らなけりゃ俺があんな鬼倒せたんだ! 」と意識を失った隊士に暴言を吐く。手当てをしていた後藤が手を止め叱責しようとしたその前に、ナマエが声を出した。


「失礼ですが、他人のせいにする余力があるなら、どうすれば自分がもっと強くなれるのか考えたらどうでしょう」


そう言ってその隊士に怪我の手当てを施そうとするナマエ。すると隊士は彼女の手を叩く。包帯が地面に落ちて転がった。


「黙っとけ眼鏡女。お前みたいな刀も握れねえ奴に説教される筋合いは無ぇよ」


今度こそ後藤が青筋を立て怒鳴りつけようとしたが、ナマエはそれを制し、その代わりに隊士を手早く縄で縛った。


「テメェ、何しやがる! 」
「貴方が抵抗するからです」
「ふざけんな! 隠の分際でっ…」


トン。ナマエが騒ぐ隊士の首に手刀を入れて気絶させた。そして気絶した男を軽々と背負い、少しズレた眼鏡を直しながら「後藤さん、行きましょう」と言う。


「…お前ホント冷静な」
「後藤さんが感情的すぎるんです」
「そりゃお前、」
「私は一人でも多くの隊士の助けになれればそれでいいんです」


走りながらナマエは少し空を見上げた。夜明けはまだ遠く、数多の星がそこにある。(後藤さんが私を助けてくれたみたいに)と、ナマエは心の中で付け足した。


「こんなアホは怒っていいんだぞ」
「後藤さんが怒ろうとしてくれるので、それで満足です」
「なんだそりゃ」
「なんでしょうね」


顔を覆った布の下で、ナマエは微笑んだ。今日も拾われた命で、誰かを助けよう。