「ナマエ、足を見せてみろ。」
鬼の頸を斬ったのはちょうど日の出前。日輪刀を鞘に戻すと、炭治郎がナマエに言った。
「…なんで? 」
「途中からずっと右足を庇っていただろう? 知ってるぞ! 」
「だ、大丈夫だよ」
「いいからそこに座るんだ! 」
炭治郎の気迫に押され、河原の岩に腰を下ろす。すると、炭治郎は遠慮なくナマエの草履を脱がせ、続いて脚絆、足袋も手際良く取っていった。
「炭治郎、大丈夫だってば」
「いいや、そんなことはない! 」
戸惑うナマエのズボンの裾を勢いよく捲り上げる炭治郎。彼の言う通りナマエの右足首は真っ赤に腫れ上がっていた。
「ほら見ろ。こういうのはすぐに冷やした方がいいんだ」
「う、うん」
炭治郎は、持っていた手拭いを川の水で濡らし、ナマエの足首に当てた。手拭いが緩くなってはまた濡らし、患部に宛てがう。それを何度か繰り返した。
「だいぶ痛みは引いてきたか? 」
「うん、ありがとう」
「それはよかった」
二人は同期隊士であったが、炭治郎はナマエのことをまるで妹のように可愛がっていた。
「それにしても、ナマエの脚は細いなぁ」
「そうかな? 」
「この脚でよく鬼と闘っているな」
いつもは隊服で隠れているため見たことのなかったナマエの脚。まるで普通の少女と同じようであったが、所々ついた傷がそうでないことを無言で告げる。炭治郎はそれが痛ましく、思わずその傷一つ一つをそっと撫でた。
「あ、あの、炭治郎…」
「ん? 」
震える声で名前を呼ばれ、炭治郎が顔を上げる。夜は明け、東の空は朝焼けで染まり始め、ナマエの顔もよく見えた。
「…くすぐったい」
下がった眉に杏色の頬。きゅっと噛んだ下唇。ナマエからは今、戸惑いと恥じらいの匂いがした。
「っ! 」
炭治郎の顔に熱が集まる。先程まで何も気にしていなかったというのに、途端、露出したナマエの脚も艶かしく感じてしまう。
「ご、ごめん!? 」
「ううん…」
そうか。目の前の子は女の子である。そう意識してしまった炭治郎。ナマエもそれを感じとってしまい、互いに視線を合わせられなかった。
「そろそろ、包帯、巻こう」
「う、うん」
思考と、心臓と、声が全部上手く噛み合わない。知らない、こんな感情も、こんな空気感も。
「…よ、よしできた! 」
処置を終え、ズボンの裾を元に戻した。きっと初めて見るナマエの脚に動揺してしまっただけである。これで一安心。そう思った炭治郎であったのだが、
「ありがと、炭治郎」
ナマエの笑顔が以前より眩しく感じてしまい、炭治郎はストン、と何かに落ちたのだ。
日の出と共に落ちぬ
(なんか、変な感じだ)
2019/12/03