もうすっかり朝も冷え込む頃。目が覚めたナマエは、温もりを求めて隣にいる恋人に抱き着いた。まだ夢の中の彼の匂いを胸いっぱいに吸い込む。優しい甘い香りがする。


「……善逸、すき」


小さな声でそう呟くと、寝ているはずの彼は「へへっ」と笑う。(喜んでる。可愛い)。


「優しい善逸がすき。泣き虫な善逸も強くてかっこいい善逸もすき。いつも可愛いって言ってくれる善逸もすき。少し硬い手のひらも、お日様みたいにキラキラした髪もすき」


果てしなく思いつく恋人の好きなところを言ってみると、その度に嬉しそうな声がする。そうしてしばらくすると、パチリと目を開いた彼がナマエを抱き締めた。


「俺もナマエのこと大好きだよ」


2人で夜を共にした次の日は、いつもこうやって始まる。すっぽりと彼の胸あたりに顔を埋めていたナマエはずりずりと上へ動き、まるで太陽は東から昇り西に沈むことくらいごく自然に唇をふわりと合わせた。


「おはよう善逸」
「おはようナマエ」
「幸せだね」
「幸せだねぇ」


どこまでも穏やかで、お互いがいればそれでいい。そんな風に思える時間。


「ずっとこうしてられたらいいのにな」
「じゃあ私善逸にずっとくっついとく」


布団の中で、これでもかというくらいに身を寄せ合った。どのくらい時間が経っただろうか。そんなこと、どうでもいいくらいに暖かくて、愛おしくて、心の底からこのままでいたいと思う。


「善逸の目になりたい。耳でも鼻でも、腕でも足でも、心臓でもいいな」
「それだと抱き締めらんないじゃん」
「まあ、確かにね」


それでもいつかどちらかが先にいなくなって、お別れをしなくてはいけないのなら、こうやって抱き着いているうちに、いつの間にか大好きな恋人の一部になっていたらいいのにと、思うのだ。いつか君が死ぬ時、一緒に死ねたらいいのにと、思うのだ。こんな幸せすぎる朝には。




こんな朝は君の細胞になりたい
(幸せすぎると、怖くなるね)
2020/11/16