「あれ?宿儺は?」

私たちのクラスの方が先に授業が終わった日、昇降口に現れた悠仁は一人の私を見つけて少しびっくりした顔をした。まるでニコイチみたいな言い方されても、四六時中一緒にいるわけじゃないんだよ?私と宿儺。


「今日は機嫌が悪いから先に帰るって」
「なんかあったん?」
「わかんない〜」
「なら少し寄り道してい?夕飯の買い物しちゃいたい」
「行く行く!」


宿儺と一緒だと、真っ直ぐ家に帰ることが多い。夕飯の買い物すら宿儺にとっては余計な時間という認識みたいだし。だから、たまにこうして悠仁と二人きりで帰るときは高校生らしい寄り道をすることが多い。映画だったり、カラオケだったり、ただ街をぶらついたり。悠仁とアウトドア派で宿儺はインドア派だから、それに対して宿儺が文句を言うことはない。夕飯がいつもの時間に用意されていれば、宿儺はいいらしい。一緒に出掛けないのかというのは、私にとって長年の謎。兄弟なんてそんなものらしいけど、一人っ子の私には分からない。


「今日の夜ご飯なに?」
「宿儺の機嫌わるいなら宿儺が好きなもんにするかな〜」
「え〜ずるい。それなら私も今から機嫌悪くなる…」
「なまえはなに食いたい?」
「悠仁の作るものならなんでもいい〜」
「なんだよそれ、ずっるいな〜」


スーパーに着いて、悠仁がカートとカゴを用意する。「私が押す」なんて小さい子みたいなこと言ったら、悠仁は「ならお願いすっかな」と言って私にカートを押させてくれた。きっと冷蔵庫の中の材料を思い出しているんだろう。たまに悠仁が考え込んだ表情を見せる。朝も夜も昼のお弁当も全部悠仁が作ってるんだもんね。すごいなぁ。


「悠仁と結婚する人は幸せだね」
「ん?なんで?」
「一緒にご飯作ってくれそうじゃん」
「ん?あ〜そうだな。そんなの出来るやつがやればいいとは思ってるよ」
「私は出来ない方の人間だから、悠仁みたいな人と結婚したいな」
「俺みたいなじゃなくて、俺じゃダメなの?」


プチトマトを選んだ悠仁が「これにしよ」と言ってカゴの中に放り込む。今、すごく大事なこと言われたような気がするんだけど、呑気に悠仁は野菜を選び続けてるし気のせいだったのかもしれない。うん、きっと私の勘違いだ。おっちょこちょいだからよく聞き間違えるし。


「やっぱり夜ご飯ハンバーグがいい」
「急にどした?」
「私の好きなもの悠仁に作って欲しくなった」
「そっか、分かった」
「チーズも乗せてね」
「了解!」


夜ごはんにハンバーグをリクエストしたのは、ちゃんとした理由があった。ハンバーグなら私も作れるからだ。「出来ない方」の人間の私だけど、「出来る人」に甘えたくはないから。「出来る人がやればいい」、じゃなくて「時間がある方がやればいい」になったらいいな。結婚ってきっとそういうものだと思うから。