「悠仁〜宿儺〜いる?」

夕方5時、虎杖家の門を潜る。玄関は開いているのに人の気配がない。泥棒?と一瞬考えたけど、宿儺と悠仁が居る家に泥棒に入る強者も早々居ないだろう。恐る恐るリビングの扉を開ける。電気もテレビもついていて少しホッとして部屋の中に入る。そこにはソファで眠っている悠仁が居た。


「悠仁、寝てるの?」

珍しく眠ってしまっている悠仁にいたずら心が湧いてきて、ツンツンと頬を突くけど起きる気配はない。ソファのひじ掛け部分に畳んで置かれた自分用のブランケットを拡げて悠仁の上に掛けた。いつもはうるさいくらいの部屋に、私と悠仁の呼吸音しかしないことが少し寂しい。早く起きないかな?そして私の名前を呼んでくれないかな。

「起きろ〜」と呪いのように耳元で囁いた。そういえば、どこでも寝れるって言ってたなぁ。こんなんじゃ起きないんだろうなぁ。寂しいなぁって思いと、珍しい悠仁の寝顔をもう少し眺めていたいって思いが交差する。


「なまえ〜」

ふいに名前を呼ばれて抱き寄せられた。バランスを崩した身体は重力に従って悠仁の上に倒れこんだ。すぐに起き上がろうとするけれど、背中に手を回されて強く抱き寄せられてしまってはそれすらままならない。まるでラッコの上の貝みたい。宿儺ならまだしも悠仁にこうやって抱きしめられることはないから、緊張が頭の中を独占する。


「悠仁、寝てるの?起きてる?」
「………」
「…寝てるか」


私を抱きしめて、悠仁は今どんな夢を見ているんだろう。幸せな夢かな?幸せな夢だといいな。私に潰されてる夢とかだったら泣いちゃうかもしれない。そんなどうでもいいこと考えていると、下半身に違和感を感じた。なにか硬くて熱いものがお腹の辺りに当たっている。私ももう高校生。それがなにか分からない年齢ではない。


「悠仁、起きて」
「なまえ、好き、」
「ちょ、ちょっと」

どんな夢を見ているのか想像出来そうな気がした。膝を立てた悠仁が、それをグリグリと私に押し付けてくる。これ以上は本当にダメ。ダメな気がする。宿儺がどこにいるか分からないし、いつここに来るかもわからないし、私たちは恋人同士でもないし。


「ゆーじ!悠仁!おーきーてー!!」
「っあ、俺寝てた???」
「あ〜〜〜〜やっと起きてくれた」
「これ夢か?夢の続き?」
「現実。ていうか悠仁どんな夢見てた?」
「なまえの夢?」
「内容!」
「どんなんだったっけな?もう忘れた」


私の気持ちなんてお構いなし。私を抱きしめたままの悠仁はいつものようにケラケラと笑って見せた。この姿勢も恥ずかしいし、早く解放して欲しい。いけないことをしている気持ちになる。ただ寝ちゃった悠仁に抱きしめられてるだけなのに。



「悠仁、そろそろ離して?」
「ん〜もうちょっと。なまえなんかいい匂いすんし」


スンスンと鼻を鳴らして悠仁は私の首筋に顔を埋める。くすぐったくて、なのに止めて欲しいとは思わなくて。やっぱりいけないことをしている気持ちになった。「どんな匂いするの?」と平然を装って悠仁に問いかければ、「うまそうな匂い」と言ってぺろりと首筋を舐め上げられた。「っあ」と変な声が出て思わず手のひらで口を押えた。


「なまえのこと食べたい」

ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てて、悠仁がデコルテラインをなぞる。その度に出したことのない声が出そうになったので、親指の付け根を噛んで我慢した。息も止めているから、苦しくなって、泣きそうになった。この感覚を私は知っている。宿儺にキスされたときにも感じた。これは、「快楽」だ。


「悠仁、だめ」
「ヤダじゃなくてだめ?」
「意地悪しないで」


ごめん、と言って悠仁が私を抱きしめたまま起き上がった。座った状態になって、さっきまでとは違う姿勢になったけど、悠仁は私を抱きしめたままだった。「もうなんもしないから落ち着くまで抱きしめさせて」と言われたので、悠仁を信じて行き場のない腕を悠仁の首に回した。どんな夢を見てたの?夢の中の私は悠仁と何をしてたの?目の前の悠仁が知らない人みたいで、悠仁が起きたのに寂しさは消えなかった。