水曜日の昼は憂欝だ。クラスでたった一人仲良くしてくれている女子が部活のミーテイングでいないからだ。どこかのグループに入れてもらうか、晴れてる日なら外でぼっち飯することもある。けど、今日は雨で、他のグループの人たちも目を合わせてはくれない。案外嫌われてるんだな、私。


「宿儺〜もう授業終わったよ〜」
「俺に構うな」
「お昼一緒に食べようよ」
「知らん。眠い」


授業中から机に突っ伏して眠っている宿儺の前の席に座って、後ろを振り返る形で話しかける。お昼を食べる様子もない宿儺は未だ机に突っ伏したまま、瞼を閉じている。


「ねぇねぇ宿儺」
「しつこい」
「宿儺が一緒にご飯食べてくれないとぼっち飯なっちゃうよ〜」
「悠仁のところに行けばよかろう?」
「だって悠仁の周りいつもたくさん人いるじゃん!絶対邪魔だよ」
「悠仁は邪魔とか言わんだろう」
「言わなくても思ってるかもしれないじゃん」
「そんな男ではない」


それは私もそう思う。でも、悠仁のクラスが居心地が悪いのは本当。あのスクールカースト最上位みたいな集団に混じるくらいなら一人のほうがましかもしれない。ならやっぱり教室ぼっち飯かなぁ。一日だけなら我慢も出来る、そう思って席を立とうとすると、ようやく宿儺が身体を起こした。ふぁと大きく口を開いて欠伸をして、片手を上げて伸びをする。


「別になまえのためではないぞ」
「うん」
「俺が腹が減ったから飯を食う。それだけだ」

そう言って宿儺は鞄からお弁当を取り出す。悠仁が作ったお弁当。私はコンビニで買ったおにぎりとサラダ。交換して欲しいくらい羨ましい。


「そんな恨めしそうな目で見るな」
「悠仁の作ったお弁当おいしそうだなと思って」
「ならばお前も作らせればよかろう?」
「うん、そうなんだけどね」


入学した直後は、私も悠仁にお弁当を作って貰っていた。それを断るようになったのは、他でもない宿儺が原因だったわけで。その頃は、まだ宿儺が大人しくしていて、みんなは宿儺の怖さを知らなかった。だから、私と宿儺のお弁当の中身が同じことに気づいた男子がそれを中学生みたいなノリで茶化して、宿儺がブチ切れた。暴力すら振るわなかったけれど、宿儺にそんな思いをさせるのはもう嫌だったから、悠仁のお弁当は辞退するようになったのだ。宿儺の怖さが拡がった今なら、茶化す人も居ないだろうけど、自分のせいで嫌な思いをする人が居るのは嫌だから。それが悠仁や宿儺なら尚更その気持ちは強くなる。



「ねぇ、宿儺その卵焼きちょうだい」
「だからやらんと言っただろうが」
「悠仁のこと大好きだから?」
「は?うっざ」
「だったらくれてもいいじゃん」
「ならん、全部俺のだ」


私のどうでもいい感情を宿儺が知っているかどうかは知らない。ただ、まだ長い学生生活で、宿儺が心も拳も痛めることにならないことを今はただ祈ってる。
本当は、私がこうして近づかないのが一番だってわかってるけど、私がまだそこまで強くはなれないから。もう少しこうして近くに居ることは許してほしい。