「海行きたい海〜」
「まだ3月だぞ、愚か者めが」
「泳ぐって言ってないじゃん」
「泳ぐ以外で海に何をしに行くんだ?」
「宿儺は情緒がなさすぎる〜〜」


テレビで江の島の映像が流れて、もうすぐ学校も春休みになるしどこか行きたいなって思って、行くなら海がいいなって、宿儺と一緒に行きたいなって思ったのに。食べることにしか興味がないんだから、宿儺は難しい。


「江の島はしらす丼がおいしいんだって」
「ほう」
「生しらすだよ〜おいしそうだよね〜宿儺も食べたいよね〜」
「残念だったな3月はしらすは禁漁だぞ?」
「え?マジで?」
「他にないのか?うまいものは」


海に行くという目的がいつの間にか「おいしいものを食べにいく」に置き換えられているような気がしたけれど、予想外に宿儺が乗り気だったのでもう突っ込まないことにした。私はただ一緒にネコ神社行ったりしたかっただけなんだけどな。


「なんだ?不満そうだな?」
「別に〜。私とのお出かけよりおいしいご飯のほうが魅力なのかな?って思っただけ」
「そうは言ってないだろう」
「じゃあ一緒に海できゃっきゃしてくれる」
「それは断る」
「え〜〜〜」
「どうしてもって言うなら神社くらいは行ってやってもいい」
「なんで私が行きたいって思ってるって分かったの?」
「何年一緒に居ると思ってる」

むに、と宿儺は笑いながら私の頬を引っ張った。全然痛くない。むしろちょっと嬉しい。春だし。食べ歩きするのも絶対楽しいと思う。神社も、ネコも、海も、たこせんも、最中アイスも。全部、楽しみ。


「じゃあ悠仁にもいつがいいか聞いておくね」
「二人ではないのか?」
「三人じゃないの?」
「鈍感め」
「え?なに?なんて?」
「バカ者と言ったんだ」
「ひどくない?バカはひどいよ?」

むに、と宿儺は今度は不機嫌そうに私の頬を引っ張った。普通に痛い。宿儺の不機嫌スイッチが、最近よくわからなくなってきたような気がする。ずっと一緒にいたって、100%相手の気持ちを理解できないってことは分かってる。ただ、歩み寄ることはできるし、一緒に居る時には笑っていて欲しい。そう願うのは間違ってるのかな?



「悠仁が行くなら俺が行く意味ないだろうが」
「え?なんで?三人のほうが楽しくない?」
「俺は、楽しくない」
「そっか、そうなのか。じゃあ、二人で行こう?」
「誰と誰だ?」
「そんなの私と宿儺に決まってるじゃん!」
「当然だな」


そう言って宿儺は自分の足の上に私を跨らせた。さっきまでの不機嫌さから、これから何をされるのかの予想が全然出来ない。私が本気で嫌がることはしないって分かっていても、それはやっぱりちょっと怖いんだ。


「お前、ちゃんとわかっているのか?」
「へ?なにを」
「俺が一緒に海に行く理由だ」
「おいしいもの食べたいから?」
「それではがんばりましょうのハンコしかやれんな」


そう言って宿儺はまるで猫に触れる様に私の喉を擦る。くすぐったくて、ちょっと気持ちいい。「がんばりましょう」しか貰えない私だけど、こうして甘やかしてくれるのはなんでなんだろう。聞いてもきっとまた「バカか」って言われるだけだから、聞かなかった。いつか私が「よくできました」を貰える時が来たら、その時は聞いてもいいかな?ねぇ、宿儺?