※現パロ宿儺はピアスあいてたらいいなって妄想の上の話です





「ピアス開けたい」

悠仁が遅くなると言っていた日、なまえと二人で映画を見ていると、脈絡もなくなまえがそんなことを言いだした。映画の中のヒロインがバチバチにピアスつけてるからか?それとも俺の耳を見てか?理由は分からんが、めんどくさいので無視した。


「ねぇ、宿儺聞いてる?」
「聞いてない」
「聞いて?」
「大人しく映画見ろ」
「宿儺の耳見せて?」
「は〜うざ」


並んで座っていたソファで、テレビの画面ではなく俺の方を見てくるなまえ。ピアスなんてまじまじと見るものではないから断った。それでも、しつこく耳を見せて欲しいとせがんでくるから、ついつい本音が漏れた。


「うざいはひどい〜」
「いいから映画見ろ」
「見終わったら見せてくれる?」
「好きにしろ」


結局俺が折れる形で、なまえはまたテレビ画面に向き合う。なまえは勉強が出来るバカだから、きっと映画が終わるころには忘れてるだろう。ざまあみろ。


「そっち行ってもいい?」
「構わんがどうした?」
「ちょっと寒い」
「バカが」

暖房のスイッチを入れて、なまえを足の間に座らせる。昔からそうだ、このバカはぎりぎりまで我慢して、限界になってから甘えの言葉を口にする。冷たくなった手のひらを握ってやれば、「宿儺の手あったかいね」とヘラヘラ笑っている。もっと早く言えばよかろうと何度言ってもその癖は治らない。それはなまえが育った家庭環境のせいに他ならなかった。


「なぜピアスを開けようと思った?」
「可愛いから!」
「それだけの理由ならばやめておけ。痛いぞ」
「どのくらい?」
「すっごく、だ」
「すっごくかぁ。めちゃくちゃ痛そう」
「めちゃくちゃ痛いな」


本当はピアッシングなんてほんの一瞬でさほど痛みはない。なまえの目的がピアスではなく、自己を傷つけることのような気がしたので止めた。それに、なまえに傷をつけるのは俺だけでなければならない。たとえなまえ本人だろうと。


「宿儺とおそろいのつけたかったのにな」
「バカだな、お前」
「バカじゃないよ〜!」
「揃いのものが欲しいのなら買ってやろうか?」
「え?欲しい欲しい」
「ここにつけるものだぞ?」


手にしていたなまえの手の薬指の付け根を擦ると、なまえは真っ赤になってうつむいた。その言葉の意味を瞬時に理解したらしい。バカだが愚か者ではないようだ。それでも、俺の手から逃げることなく「それはまだいらない」と拒否の言葉を口にする。分かっているのだ、その縛りがなんなのかを、俺を選ぶということがどうなるかということを。


「まだ、か」
「そういうのは給料三か月分って聞いた」
「それは婚約指輪だな。俺が言ってるのは結婚指輪だ」
「そうなの?どう違うの?」
「どっちも買ってやるから気にするな」
「今すっごいバカにした」
「バカだと思っているからな」


結果論になるが、なまえの興味がピアスから逸れたので、今日はもうそれでいい。いつか、結婚適齢期になったなまえが選ぶのは俺でなければならない。急いては事を仕損じる。ゆっくりじっくり俺を選べばいい。