なまえはとっても可愛い。本人には自覚はないけれど、俺と宿儺が惚れる程度には可愛い。ただ、本人に自覚がないばかりに警戒心が薄い。普段なら俺か宿儺が一緒に居ることが多いので、なまえの警戒心の薄さに気づいてもなまえに寄ってくる男は居なかった。

今日は、昼から友達とカラオケ(=合コン)の日。朝から一度もなまえが顔を見せないので、宿儺は機嫌が悪い。っつっても、俺も合コンに行っていると分かっていて気分がいいわけがなかった。ただ、なまえが無事に帰ってくればいい。それだけを願って、家での暇な時間を過ごしていた。

気分が乗らないまま、昼食を食って、後片付けをしている時だった。ポケットの中のスマホが機械音を立てた。すぐに呼び出し主を確認した。予想通り、相手はなまえ。


「もしもし、なまえ?どうした?」
「ゆーじ」
「うん、俺。どうした?」
「……迎えに来てくれる?」


怯えたような声だった。「すぐ行く」と返事をして、エプロンを外して、「なまえ迎えに行ってくる」と宿儺に告げた。一瞬反応したかに見えた宿儺が、こちらを振り返ることはなかった。



▽▽▽


指定されたカラオケボックスの入口の前の花壇になまえは居た。全然知らないヤツと二人。二人の距離が近いけど、それは俺と宿儺との距離とはちよっと違っていて。なんていうか、なまえは距離を取ろうとしているのに、男の方が距離を縮めようとしている。そんな空気。


「なまえ〜」
「あ、悠仁」
「お迎え?」
「うん、ごめんね」
「お兄さんかな?」
「なまえ、この人誰?」


俺の姿を見て安心したなまえは、そそくさと俺の隣に駆け寄る。いつものように腕にしがみつく。どこをどう見たら兄弟に見えんだよ、と半ば呆れ気味に対応する。変な奴に好かれちゃったなぁ、なまえは。


「悪ぃけど怖がってるから連れて帰んね」
「まだ俺の話終わってないんですけど?」
「なまえ、まだ話すことある?」
「ない」
「って言ってるけど」
「せめて連絡先教えてよ?」
「しつこいと嫌われんよ?」


結構強引だな、と思った。ずっとなまえはコレの相手をしていたのかと思うと、頭を撫でて労わってやりたくなった。万が一、なまえが今後も連絡を取りたいって気持ちがあるかもしれないから、となまえの意志確認もしたけど、そうでもないらしい。ここはバッサリ切って、早く帰ろう。家に置いてきた宿儺も気がかりだし。きっとイライラしながら、なまえが帰ってくるのを待ってるはずだ。


「お兄さん、そろそろ俺ら帰るね?」
「ちょ、」
「用があるなら会いに来なよ。話をするかしないかはなまえ次第だけど」
「もう顔見るのもやだ」


あーあ言っちゃった。さっきから相手の顔を見ないから、そうだろうなって気はしてた。なまえはそういうところ、宿儺と似ているからなぁ。好きか嫌いか、ただそれだけで判断する。そのあと、丸く収めるのはいつも俺。嫌じゃないけど、それならそれなりの権限与えて欲しいとも思う。彼氏とか、彼氏とか、恋人とかさぁ。


案の定、なまえの言葉に不快感を露わにした男は、なまえに向かって手を伸ばしてきた。なまえを庇いつつ軽くいなすと、男はよろけて地面に倒れこんだ。かっこつけようとしたつもりが、かっこつかなかった男は、周囲の目を気にして「覚えてろよ!」と少年漫画の雑魚キャラのようなセリフを残してカラオケ店へ戻っていった。


「なまえ〜」
「悠仁聞いた?覚えてろだって!」
「で、なまえはなんでこんなとこにいて、あんなのに絡まれてたの?宿儺に行くなって言われたっしょ?」
「あんな変な人いるって聞いてなかった」
「わざわざ変な人も来るよって言わんくない?」
「あ、そっか」
「次はない」
「今の宿儺に似てた!」
「だろ?」
「悠仁、」
「ん〜」
「ごめんなさい」


俺の腕にくっついたなまえは俯きながら小さな声で謝罪の言葉を口にする。「気をつけろよ」とようやくなまえを甘やかすことができた。ホッとした。謝らなくていいからもうこんな風に心配するような場所に行かないで欲しい。そう願って、二人家路を歩いた。