「宿儺〜悠仁〜学校行こう〜」

月曜、朝7時半。虎杖家の玄関を開ける。ダイニングから悠仁の「なまえおはよ〜ちょい待って」の声が返ってきて、いそいそと靴を脱いで虎杖家に上がる。ダイニングに向かえば、ちょうど悠仁が朝の情報番組見ながらご飯を食べている所だった。本当なら8時に家を出れば、学校に間に合う私が30分前に虎杖家を訪れるのには理由があった。そのいち、宿儺を起こすため。そのに、悠仁の作った朝ごはんを食べるため。


「お〜なまえ飯食った?」
「まだ〜!私の分ある?」
「あるよ。用意しとくから宿儺起こしてきてくんね?」
「は〜〜〜い」


スカートを翻し、二階への階段を昇る。手前に見える悠仁の部屋を通り抜けて、物音のしない宿儺の部屋を一応ノックする。案の定返事はない。「失礼しまーす」と小声で声を掛けて宿儺の部屋に入る。相変わらず物が少ない。ミニマリストって言葉は似合わないけど、最低限って感じの部屋だ。掃除がしやすそう。
ベッドの上で、未だ宿儺は寝息を立てている。私がこうして宿儺を起こすことが習慣になっているくらいには、何度も繰り返した行為。何度見ても寝ている宿儺からは、普段の暴力的な宿儺は想像できない。すやすやって書いて横に置いておきたいくらいに健やかに寝ているの可愛すぎるでしょうが。


「おい、いつまで見ている」

一体いつから起きていたのか、目をぱっちり開いた宿儺と目が合った。くあ、と大きく口を開いて起き上がった宿儺は、先ほどまでの可愛さは微塵もない。残念。もう少し堪能したかった。


「今日の朝飯はなんだ?」
「みてなーい」
「使えんな」
「起こしに来た人に言う言葉じゃないでしょ?」
「別に起こしに来いと頼んではないだろう?」


それとも、と言葉を続けた宿儺は、立ち上がり入口付近に立っていた私の元まで歩み寄ってくる。そして、私の顎に手を掛けたかと思えば「おはようのキスでもしてくれるのか?」と私をからかう。相手が私じゃなくてもきっと同じことをするんだろうなって気持ちがすぐに頭の中に過ぎって、「はいはい」と返事を返した。

つまらなそうに舌打ちをした宿儺は、眉間に皺を寄せつつ私の唇に唇を重ねた。はい?まって?今?なにした??と処理しきれない情報が、脳内を駆け巡る。その間にも宿儺は、グッと閉じたままの私の唇を舌で割き、咥内に自分のものではない感触が暴れ回った。歯列をなぞり、舌先を吸ったかと思ったら、服を着たままの私の腰を撫でる。反則じゃないか、と抵抗のために宿儺の胸を叩くけれど、私の頭の後ろに回された手は私を掴んで離さない。ぬるりとした舌が咥内を這いまわるのを私はただただ受け入れるしかなかった。


「…ン」
「悠仁が居るからこのくらいで勘弁してやろう」


上から目線の宿儺が私の唇を開放してくれたのは、口元から唾液が零れ落ちる一歩手前だった。じくじくと身体の芯が疼く。キスなんて、唇と唇がくっつくだけのものしか私は知らない。それも、相手は悠仁や宿儺で、小学校低学年の時の話だ。こんなの、こんなキス、私は知らない。


「なまえ」
「……なに」
「俺は今から着替えるが、お前はいつまでそこに居るつもりだ」


心臓の動悸が未だ止まらない。なのに余裕な宿儺が、私はムカついた。だから「バカバカバーーーーーーーカ」と罵倒の言葉を口にして、部屋の扉を思いっきり力を込めて開いて部屋を後にした。

宿儺はずるい。こんなにも私を動揺させておいて。きっと誰にでも同じことをするんでしょ?私じゃなくてもいいんでしょ?ずるい。ずるいよ。こんな気持ちを抱えて、ご飯なんて喉を通らない。